いのち優先の社会への転換点 憲法を生かし、守る45期へ 1日目 運動方針案説明 岸本啓介 事務局長
パンデミックのもと、全国で民医連綱領を掲げ、奮闘しているすべての職員、代議員のみなさんに心から敬意を表します。運動方針案はすべての県連で討議され、全国から2044件の感想、提案、意見が寄せられて、その内容は理事会で議論しました。討議内容と方針案発表後の情勢の補強を中心に報告します。
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第44回総会運動方針では、2020年代の民医連の4つの課題を提起しました。ここにコロナ禍で浮き彫りとなり、運動に取り入れるべき内容、キーワードを書き入れてスローガン案としました。
45期最大の運動課題の改憲阻止をはじめ、気候危機打開を取り入れました。核廃絶には「原発ゼロも必要」と意見がありました。運動方針案の第3章3節で、核兵器のない社会の実現、「黒い雨訴訟」判決を生かしたすべての被ばく者の救済、ビキニ被害者訴訟への全国支援、原発ゼロ・福島の復興と気候危機の打開を掲げました。そのため、スローガン案は「核」に凝縮した表現としました。
補強意見として「コロナ対応を入れるべき」との意見が多く寄せられました。45期は、コロナ禍を克服し新しい社会をめざすという意味で、コロナそのものは記載せずに提案しました。討論の中で議論し、決定したいと思います。
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第1章1節(2)で、国連の「新型コロナウイルスと人権」を引用した趣旨を補足します。新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、特にぜい弱な立場の人びとに深刻な影響を与えています。日本でも、これまで社会に存在していた不平等や差別が顕在化し、感染症は無差別でも、その結果や影響がすべての人で同じではないことを見てきました。
人権の尊重が感染症対策の基本です。コロナ禍で「高齢者のいのちに対する差別」「医療・介護関係者へのバッシング」などが起こりました。私たちには、こうしたことに対し、人権を基礎に、国や自治体の感染症対策が公正に実施されているのか、検証することが求められています。
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新型コロナウイルス感染症第6波は感染拡大の速度が速く、死者数が急増しています。高齢者施設、病院でのクラスター、自宅での急変・死亡の急増も顕著です。ここには2つの問題があります。
第1は岸田内閣の大失政です。オミクロン株を重症化しないと軽視したこと、ワクチン接種の遅れ、検査体制の不足、医療機関、介護事業所への支援の打ち切りなど。記者会見ではこれらへの反省もなく、オミクロン株の特性を踏まえた対策も出せていません。
第2は、第1章1節で「90年代から政策的にすすめられてきた(中略)国民のいのちを守る医療資源の縮小が進行していたこと」を原因と指摘しました。感染拡大のたびに起こる医療・介護の危機が、なぜくり返されるのか。方針案を深め、原因を突き止め、いのち優先の社会への転換をはかる45期とすることを確認したいと思います。
第2章の情勢の基本は、コロナ禍があぶりだした格差・貧困、不平等のひろがりと、それらをつくり出した新自由主義の政治と政策が明確になったこと。そしてこの2年間で、それを乗り越える運動がさまざまな分野でひろがっていることです。
「つくられた貧困と不平等」の提起は、全国で新鮮に受け止められています。『歯科酷書』第4弾の中間報告には、つくられた貧困による健康格差にコロナ禍が追い打ちをかけ、医療・介護にたどりつけない事例が寄せられています。
45期は、「いのち」に直結する転換点であり、大きな分かれ目です。コロナ禍に直面し、岸田総理は新自由主義の弊害を乗り越えると発言しながら、実際にはさらに社会保障解体の道を突きすすみ、いのちの危機をひろげています。
いのちの転換点に関し、憲法を守り抜くことを強調しておきます。方針案は憲法を生かし、守り抜くことを45期の最大の運動課題と提起しています。岸田内閣は、改憲と同時に大軍拡を押しすすめ、安保法制(=戦争法)により、自衛隊がアメリカとともに戦争する道にすすもうとしています。日本の核兵器禁止条約の批准、「核の傘」からの離脱、憲法9条にもとづく平和外交への転換を強く求め、声を上げましょう。
7月の参議院選挙で、改憲をすすめる国会議員を3分の2未満にし、国会での改憲発議を止めましょう。ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対し、理事会は緊急に特別決議案を提案しました。日本を戦争する国にしない、改憲を止める、これは、私たちの綱領上の使命です。最大の課題に向けて奮闘していきましょう。
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経営に関して、2021年度のモニター法人の第3四半期結果が報告されました。患者数は外来、入院ともに20年比、19年比で見て回復には遠い状況です。補助金を除いた経常利益は、マイナス11億3000万円(利益率マイナス0・6%)、予算には37億円の未到達です。事業・経営はひきつづきコロナ禍の影響で複雑かつ特殊な状況にあり、運動方針案の経営分野の全面的実践が必要です。
2020年8月12日、特養あずみの里裁判は逆転勝利し、介護の未来を守り抜きました。判決の意義と民医連組織としての教訓に方針案で触れています。
今年2月18日、最高裁第二小法廷は、乳腺外科医師えん罪事件において、外科医師を懲役2年の実刑とした東京高裁判決を破棄し、審理を高裁へ差戻す判決を出しました。力をあわせて差戻し審で無罪判決を勝ちとるため、全国から支援を強めていきます。
旧優生保護法による強制不妊手術について補足します。今年2月22日、被害者が全国で起こしている国賠訴訟で、大阪高等裁判所は「除斥期間」の適用を否定し、一審の判決を取り消し、国に賠償を命じる判決を出しました。理事会は国がこの判決を重く受け止め、全面的解決に向けて被害者と話し合うことを強く求めます。全日本民医連は「旧優生保護法プロジェクト」を立ち上げ、見解案を検討してきました。人権侵害と倫理的問題への、民医連としての対応原則や倫理的規範について、具体化をはかっていきます。
全県の討議の中で、気候危機へのとりくみの交流、職員のいのちと健康とともに地域のいのちを守ってきたこと、医学生対策の全国的呼びかけ、コロナ禍を通じてBCP(事業継続計画)の重要性が身に染みた、方針案にある全国交流・研修をぜひ、など方針案に沿った提案、期待、意見が多数出されています。
私たちの2年間を重ね合わせ、コロナ禍を招いた原因の原因を変えましょう。いのち優先の社会としていくことこそが、これからの私たちの2年間です。
(民医連新聞 第1756号 2022年3月21日)