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民医連新聞

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相談室日誌 連載512 犬とともに地域で暮らす 最期の時の意思決定支援(北海道)

 60代男性のAさんは、自宅で母親と犬2匹とともに暮らしていました。Aさんは他人が自宅に入ることへの拒否感が強く、最初は約束をしていても玄関先で追い返されることもしょっちゅうでした。
 そんな中、母親が施設入所となり、独居となったAさんは要介護度1の認定になりました。担当のケアマネジャーも辛抱強くかかわり続けた結果、訪問看護が開始され、受診も月1回に。支援者は限定されましたが、徐々に受け入れてくれるようになりました。しかし、室内は掃除もされず、アルコール依存症による認知症や体調悪化がすすみ、「犬を安心できるところに預けられれば入院療養したい」と話すようになりました。支援者も説得を続け、悪戦苦闘していたある日、Aさんが末期がんで予後1カ月程度であることが判明。それでもAさんは「犬がいるから今日は帰る」と点滴をして帰宅。つらそうなAさんにくり返し入院を説得し、包括支援センターで緊急の地域個別ケア会議を実施。行政や医師、ケアマネ、訪問看護師、SW、包括職員らが集合し、今後の方向性を検討しました。
 私は「犬は保健所へ預け、一刻も早く入院させたい」と考えていましたが、本人の意向を中心に話し合った結果、何とか飼い主を探して、早急に入院してもらうことにしました。包括・行政で飼い主探しを、ケアマネや訪看は入院の説得を、病院側では入院の受け入れ準備を同時並行で行い、情報共有しながらすすめました。動物保護団体にも繋がることができ、5日後には本人が入院し、翌日には犬を無事預けることができました。
 私は、あくまで支援対象は「人間」であり、犬は「ペット」という認識でした。ですがAさんにとっては「犬は自分の子ども」であるため、犬をどうにかしなければ、この支援自体がすすまないという結論に至りました。
 この間、各支援者が何度も「本当にこれで良かったのだろうか」と自問自答しましたが、普段から真摯(しんし)に本人に向き合い、日々の対話や寄り添う思いを積み重ねていくことで、本人の意思表示が困難になった時にも、最終的な意思決定の支援が成り立つのだと感じています。

(民医連新聞 第1753号 2022年2月7日)