相談室日誌 連載511 家族に代わり伴走する新たなソーシャルワーク(山口)
「会計を終えても『この人はこれからどうなるのだろう』と思いながら患者を見送ることが増えた」という事務職員がいます。
20年11月に誕生した「地域福祉室メロス」は、このような人びとに対応する部署です。「メロス」は伴走して「走る」をイメージしました。
生活保護利用のAさんは立ち退きを迫られ、たった一人で引っ越し作業をして体調不良になりました。外来看護師からの連絡で、メロスが早急にお手伝いを始めましたが、その翌日にはストレス性の胃潰瘍でショックとなって救急搬入されました。
個人事業主のBさんは、交渉ごとが苦手で、請負先から不利益な契約を結ばされ、コロナ禍で赤字続きです。たまたま受診した当院で無料低額診療事業が適用されましたが、所持金も少なく深刻な不眠となり、医師からメロスに紹介されました。すぐに零細業者の支援を得意とする元民商の医療生協組合員の力を借りて、社協が扱う福祉資金の手続き、さらに生活全般への対応を開始します。「生活保護はまだ受けたくない。働けるうちは働いてお客さんを大事にしたい」という思いの強いBさんも、しばらくしてやっと眠れるようになりました。
孤独な一人暮らしのなか体調を崩し入院が必要になった若いCさんは、家族から虐待を受けて育ち、愛情を知りません。入院前に相談を受けたメロスでは、入院中に堅実に生きていく方法をいっしょに考え、調理実習をしながら「真剣に幸せを願う愛情」を注ぎます。地元の社協までいっしょに行き、退院しても見守り続けます。
これらの事例から感じるのは、この生きにくさのなかでは、これまで通りのソーシャルワークだけではもう太刀打ちできないということです。家族機能が低下する中では家族に代わる機能、存在が必要です。メロスでは共同組織の人たちとともに、そうした存在をめざしています。
「いつもこの人はどうなるのだろうと思っていましたが、それを解決するのがこの場所ですね」とメロスの新任事務職員。
新たなソーシャルワークを時代が必要としていると感じます。
(民医連新聞 第1752号 2022年1月17日)