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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 不適切な環境で育つ子どもたちと大掃除大作戦! 子どもの養育環境を支援香川・へいわこどもクリニック

 不適切な養育環境で育つ子どもたちへの負の連鎖を止めようと、7年以上足を運び、支援を続けた結果、子どもたちの成長を実感できた事例がありました。第15回全日本民医連学術・運動交流集会で、香川・へいわこどもクリニックの野口美緒さん(看護師)が報告しました。岡野夏江さん(看護師)にも話を聞きました。

 当クリニックがかかわる家庭には、貧困、虐待、親が精神疾患患者など、問題を抱える家庭が多くあります。不適切な養育環境には連鎖があり、親自身も適切な環境で育っていない場合がほとんどです。子どもの成長・発達の過程にも悪影響を与えます。今回、外国人で精神疾患がある母親の家庭に、7年以上アウトリーチを続けている事例を報告します。

【事例】2021年12月現在
 家族構成は、姉のAさん(高校2年生)、弟のBさん(高校1年生)、その母の3人。猫を1匹飼育。Aさんは物の管理ができず、学業は苦手、学校での態度や友人関係は良好。Bさんは学校を休むことがあり、忘れ物が多く、友達から借りた物をなくすこともあり、成績は姉より悪い。母はフィリピン出身で、日本人男性(AさんとBさんの実父)と結婚し離婚。日本語が不自由でうつ病とパニック症候群があり、片付けと金銭管理ができない。

■子どもたちに掃除の仕方を

 2013年、当時まだ小学3年生だったAさんがアトピー性皮膚炎で初受診。真夏にダウンコートを着て、頭にはシラミが。以後、子どもたちだけで受診することもありました。母が職場でトラブルを起こして警察沙汰になり、子どもたちは一時、児童養護施設に入所。その後、転居・転校していたことを、児童相談所を通じて知りました。これをきっかけに児童相談所や学校、行政とケース会を開き、情報を共有して支援するようになり、生活保護の利用と、週1回のホームヘルパー(掃除)の利用につながりました。
 当クリニック主催のサマーキャンプに誘い、荷づくりを手伝うために自宅を訪問すると、ゴミだらけの家で生活していることが判明。足の踏み場がないほど物が散乱し、食べた物は放置され、家中異臭が漂い、リュックにはうじ虫が。留守の時は鍵が開いていて、電気・テレビ・エアコンはつけっぱなし。母在宅時は鍵をかけて応じてくれないこともありました。
 2017年から、香川医療生協の組合員の協力を得て毎年、年末大掃除を実施。冷蔵庫にはふたのない飲みかけのペットボトルのジュース、風呂の排水溝には猫のふんやナイロンタオルがつまり、トイレの便座は壊れて外され、使用済みの生理用ナプキンが包まれないまま放置されていました。
 母に掃除の仕方やゴミの分別の指導を何度か試みるも改善が難しかったため、子どもたちが在宅する日時に訪問しいっしょに掃除。子どもたちがゴミの分別と捨て方を覚えられるよう指導しました。

■地域で未来切り開く支援

 不適切な養育環境で育つと、それが当たり前になり、子どもにも連鎖します。連鎖を止めるには、子どもたちが「いまの生活環境は適切ではない」と認識する必要があります。また、今後社会とつながる上で生活能力を身につけることが重要です。親への介入より、子どもへの援助が有効な事例もあります。地域の人の協力も重要で、まだ子どものうちに自立に向けた支援を行うことが必要です。
 今回の事例でも当医療生協の組合員や職員OB、民生委員、勉強をみてくれる喫茶店、子ども食堂と連携して無料でカットを引き受けてくれる美容院など、地域の力も発揮してもらいました。
 Bさんからは「いまの僕があるのは、へいわこどもクリニックのおかげ」とうれしい言葉も。ハイキングで小さい子の面倒をみたり、子ども食堂にボランティアで参加するなど、支援される側から支援する側に成長しています。別の家の大掃除に参加して「うちとどっちがひどいかな?」と話すなど、自宅の生活環境が適切でないと認識できている発言も。「長年かかわってきたかいがあった」と、職員一同で喜んでいます。
 2人は寮のある高校に進学しました。一般的な生活能力を身につけてくれたらと期待しています。
 介入を拒むことも多い母への支援や、いずれ18歳を超え就職する子どもたちへの支援には課題も残りますが、ひきつづき他機関と協力し、支援を継続します。

(民医連新聞 第1752号 2022年1月17日)