憲法といのちをまもるため 野党共闘の流れをさらに大きく 衆議院選挙の結果をどう見るか 全日本民医連 岸本啓介事務局長に聞く
10月31日、衆議院選挙が行われました。選挙結果をどう見たらいいのか。今後のたたかいの展望はどこにあるのか。全日本民医連事務局長の岸本啓介さんに話を聞きました。(多田重正記者)
「いのち最優先」を掲げた民医連
―民医連は衆議院選挙にあたり、「いのち最優先」の社会への転換を掲げました。
コロナ禍で、私たちのいのちやくらしが政治と深くかかわっていることを、多くの人が実感したと思います。自公政権は、PCR検査の実施拡大や保健所の体制強化、医療・介護事業所への財政支援には後ろ向きで、GOTOトラベルやイートなど、目先の経済活動を優先してきました。
8月には緊急事態宣言下で東京オリンピック・パラリンピックの開催を強行し、感染拡大をさらにひろげました。病床が不足し、医療を十分に受けられず、自宅で亡くなる人があい次ぐなど、自公政権の失政は明らかだったと思います。選挙直前に首相を変えざるを得なかったのも、失政で国民の批判が高まり、菅義偉首相では選挙をたたかえなかったからです。「いのちを守るために政治を変えるしかない」と、民医連は新型コロナウイルス対策、医療・介護制度の改善などの要求を掲げて、野党4党と力をあわせ、全国で学習や宣伝などにとりくみました。
力を発揮した野党共闘
―共闘した野党4党の議席は全体として減りました。少なくないマスコミが野党共闘を「失敗」「効果は限定的」と報道しています。
これは、共闘の失敗を望んでいる人たちの議論です。
今回の総選挙では、289ある小選挙区のうち、207で野党共闘の候補一本化が実現しました。議席をもっとも減らした立憲民主党は小選挙区だけで見ると、議席を48から57へ増やし(表)、うち54が一本化した候補です。立憲民主党の候補が小選挙区で当選し、自民党の幹事長や元幹事長、前大臣などを落選させました。野党共闘は力を発揮しています。
自民党の衆議院議員・平将明さんは選挙後、「立憲と共産の統一候補はたいへんな脅威だった」「(ぎりぎり勝利した小選挙区が)30ぐらいあった」とふり返っています。
―日本維新の会が躍進したとの報道もありますが。
前々回の衆議院選挙(2014年)の議席数(41議席)に戻っただけです。同時に、見てきたように、野党の共通政策(10月18日号5面で紹介)が十分に有権者に伝わらないなかで、自民党の政治を変えたいとの願いが維新の会に一部集まったと思います。
「選択肢」が見えれば有権者は動く
―野党共闘の議席を増やせなかった原因は、どこに?
野党共闘の力に、与党(自民・公明)は総力をあげた攻撃を行いました。自民・公明が、自衛隊や日米安保条約に対する態度など、共闘した野党間の立場の違いを強調し、野党統一候補に日本の政治を任せられないと宣伝しました。
野党4党がめざす政策の中身を有権者にひろげる時間も不足していました。「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(※)が野党4党に要求し、これに各党の代表が署名する形で「共通政策」に合意したのが9月8日。立憲民主党と日本共産党が小選挙区での候補一本化に合意したのが、総選挙の1カ月前(9月30日)でした。一橋大学名誉教授の渡辺治さんは、政策を訴えて国民の理解を得て希望になるところまでひろげるには時間がなく、政党間の話し合いも足りなかったと分析しています。野党共闘の議席が小選挙区で伸びたのに比例で伸びなかったのは、政策の魅力が伝わらず、共闘した個別の政党の得票率もほとんど上がらなかったためです(図1)。
―投票率(55・93%)も低く、残念でした。
「投票に行こう」という呼びかけと同時に、誰に投票すれば日本の政治がよくなるのか、政策の中身が伝わってこそ投票に行くのだと思います。野党4党が合意した共通政策は、憲法とともに、科学的知見にもとづいたコロナ対策や、格差と貧困の是正、ジェンダーの問題、選択的夫婦別姓、気候危機の問題など、自民党や公明党、維新の会などが決して言えないような政策を掲げています。
1つの選挙区で1人しか当選しない小選挙区制のもとでは、共通の政策を持つ多数の野党が候補者も一本化し、力を寄せあうしか勝利する方法はありません。
今回は、野党統一候補を立ててたたかった初めての本格的な衆議院選挙でした。「共闘の足らずを改善していく」たたかいはこれからです。共闘する野党が何をめざしているのか伝わって希望を感じる有権者が増えれば、投票率も上がるのではないでしょうか。
来年夏の参院選は改憲阻止の大勝負
―選挙後になって、改憲論議がさかんに。改憲に向けた動きが一気にすすまないか、心配です。
憲法は、大きな危機を迎えていると思います。衆議院では、自民党、公明党、維新の会の改憲派が改憲案の発議に必要な3分の2を超える勢力になりました。
参議院では、国民民主党が改憲に加われば3分の2を超えます。維新の会や国民民主党が改憲に同調することで、与党から見れば「野党も加わって審議した」形をとりやすくなります。
ただ、日本維新の会が言い始めたような、来年夏の参議院選挙と改憲のための国民投票の同日実施は困難だと思います。改憲を国会で発議するには改憲案を明文化しなければなりません。しかし自民党内ですら、どのように改憲するのか意見はまとまっていません。
改憲阻止の「最初の大勝負」は参議院選挙になると思います。改憲発議には衆参両院の3分の2以上の議席が必要ですが、参議院でひきつづき改憲派の議席を3分の2未満にするたたかいが重要です(図2)。
改憲派も「過半数が改憲に賛成する」確信がなければ、国民投票に乗り出すことはできません。改憲案を国民投票にかけて否決されたら、簡単には立ち上がれないほどの打撃を受けます。改憲案を国民投票にかけたら過半数をとれるかどうか、世論の動向を見ていると思います。世論調査では、投票でもっとも重視するものを「憲法改正」と答えた人は3%でした(NHK、10月15~18日)。
「9条改憲NO! 全国市民アクション」は選挙結果を受けて、憲法を守るための署名用紙をリニューアルしました。私たちの運動が重要です。コロナ禍で今必要なのは憲法を生かすこと。改憲を阻止する展望は十分にあります。
民医連の実践と果たしてきた役割に確信を持って
―今後、民医連として、どのようなとりくみをすすめていけば?
全日本民医連は、来年2月に第45回定期総会を開きます。来期(第45期)は、結成70年という民医連としても歴史的な節目(2023年6月7日)を迎えます。
私たち民医連は、医療・介護現場や地域にねざして、ひとつひとつの事例を大切にして、「いのち、憲法、綱領」の視点から、どのような社会をめざすべきなのか、発信してきました。
コロナ禍で経済・雇用が悪化し、生活困窮がひろがっていますが、受療権を守る民医連の実践は共感を呼んでいます。先日も福岡医療団のホームレス支援のとりくみが地元紙で報道されました。
民医連はコロナ禍でも、部分的ですが、医療機関への公的な財政支援を運動の力で実現し、共同組織とともに地域の共有財産である事業所を守り抜いて、いのちを守るための懸命の努力を続けています。コロナ禍を経てもなお、自公政権は「地域医療構想」で病床を減らす方針を変えず、すべての世代に負担だけを押し付ける「全世代型社会保障」を強行しようとしています。医療・介護改悪と、正面から対決する運動を大きくすることが必要です。
来年は沖縄の本土復帰50年です。1月に名護市長選挙、秋には沖縄県知事選もあります。民医連は、辺野古新基地建設をストップするため、全力で支援することを決めています。民医連の実践と、果たしてきた役割に確信を持ち、憲法を守り、いのちを守るとりくみを飛躍させましょう。
※戦争法(安保法制)廃止のたたかいを通じて、野党共闘をすすめる必要を感じた市民たちが結成
(民医連新聞 第1750号 2021年12月6日・20日)