人権のアンテナを高く掲げ⑤ 子どもだけでは終わらない 日常に隠れたケアの重み ヤングケアラーとは
ケアの多様化がすすむ現代、家庭内のケアが注目されています。ケアを担う子ども・若者、ヤングケアラーもそのひとつです。ヤングケアラーとは、どのような存在なのか、解説とともにその課題に迫ります。(稲原真一記者)
見えにくい困難、生きづらさ
日本ではヤングケアラーに法令上の定義はありませんが、一般的には「本来大人が担うと想定されている、家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」とされています。“ケアラー”という言葉を使う背景には、担う役割の多様さがあります。ケアと聞いて想起する家事や病気の家族の世話だけでなく、情緒面のサポートや金銭管理など、その内容はさまざまです(図表1)。お手伝いの延長とも見られるこれらが、家庭内では不可欠な役割になっているケースが多数あります。ケアの対象も介護が必要な祖父母、障害や精神疾患を持つ親やきょうだいなど、個別性も高くなっています。
日本では、今年3月に初めて中高生を対象にした国の調査結果が公表されました(図表2・3)。調査から、少なくとも中高生の約4~6%がケアをしており、高校生では定時制で8・5%、通信制で11%と全日制に比べてさらに高い傾向があることがわかりました。またケアをしている人のうち1割は、1日7時間以上ケアを行っていました。ただ本人がケアラーだと自覚していない場合も多く、専門家から「実態を把握しきれていない」との意見も。家庭の事情を知られることを恥と感じる、同情されるのを嫌って話せない、大人が「面倒見のいい子」としか見ない、なども見えにくさの一因と言われています。
ケアが長期化し、子ども時代から青年期にかけて影響が続くことも珍しくありません。子どもだけではなく、その後の青年世代の問題として地続きで考える必要があり、子ども・若者ケアラーという呼び方もされます。
子どもや若者の人権を意識して
ケアが子どもや若者へ与える影響はさまざまです。心身への負荷は学校での居眠りや遅刻、欠席につながり、学力低下だけでなく素行不良などと捉えられます。放課後の部活や同年代の友人との交流の機会も奪われ、不登校や進学を諦めることにもつながっています。ケアの負荷が与える、成長期の健康への影響も無視できません。青年期になると、ケアを続けるために大学や仕事を辞めざるを得なかったり、フルタイムで働けず自由な職業選択ができません。そのため社会的な孤立に陥りやすく、ケアが終わった後の社会復帰にも大きな影響を残します。
民医連の現場でもさまざまな事例があります。70代の祖母を脳腫瘍の術後、在宅で亡くなるまで2年間ケアしていた20代女性。女性は母子家庭で母親は早くに他界し、本人は就労できていませんでした。他にも、在宅で看取りとなった末期がんの母親を、中学生の娘がケアしていた事例。母親が夜の仕事をしていて、高校を中退した息子が1歳のきょうだいを世話をしていた事例もあります。
一方で立命館大学産業社会学部教授の斎藤真緒さんは、「報道などでは、ケアラーの負の側面が強調される。しかし、疾病や障害に対する理解の深さ、生活能力の高さ、高い計画性や実行力など、プラスの側面も大きい」と言います。実際にヤングケアラーの経験を生かし、福祉の現場などで活躍する人も多数います。当事者支援にかかわる元ヤングケアラーは、「ケアラーは大変な人、弱者であるという一面的なイメージを変えたい」と話します。
斎藤さんは「子どもや若者が、ケアをしないという選択を取れるかどうか、親や保護者の見守りや支援があるかが重要」と言います。ケアそれ自体が問題ではなく、本来ケアラーが保障されるべき権利が、過大なケアの負荷によって侵害されていることが問題です。家庭内でのケアを子どもや若者の人権問題と捉え、アンテナを高くすることで、日常に隠れたケアラーの存在が見えてくるはずです。
(民医連新聞 第1748号 2021年11月1日)