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民医連新聞

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これでばっちり ニュースな言葉 暴力では押さえ込めない 今アフガニスタンで何が 

ジャーナリスト

こたえる人 西谷文和さん

 アフガニスタン(以下アフガン)の反政府勢力タリバンが首都カブールの大統領府を制圧し、アフガン政府は崩壊。アメリカは「2001年9月の同時多発テロの容疑者をかくまっている」とタリバンが統治するアフガンに空爆を開始し、その後20年近くにわたって戦争を続けてきました。今アフガンで何が起きているのか、ジャーナリストの西谷文和さんの解説です。

 今年8月15日、タリバンが首都カブールを陥落させました。その直後から街は大パニックに陥りました。なかでも悲惨を極めたのが空港でした。当初「パスポート、ビザなしでも脱出できる」というウワサが立ったため、群衆が殺到したのです。空港の入り口には何カ所かの検問所があって、そこに米兵とタリバン兵がいます。制止を振り切って入ろうとする人びとは銃殺されました。運よく滑走路まで入ったものの、乗りこめずに米軍輸送機にしがみついた若者は空中で振り落とされました。通訳のアブドラが送ってくれた写真の中に、空港ロビーに捨てられた赤ちゃんの写真がありました。亡命するのに邪魔になったのでしょう。現代版「中国残留孤児」です。
 この日以来、アブドラは連日のように写真を送ってくれています。中学校の中庭に野宿する人びと、「物を盗んだ」と街中でタリバン兵にムチ打たれる男性、ゴミ捨て場で食べ物を探している少年…。明らかにみんな飢えています。カブールの冬は寒く、気温はマイナス20度まで下がります。いのちの危機に直面しているのが今のカブールです。

■渦巻く反米反政府感情

 なぜタリバンがこんなにもあっけなく政権を奪取できたのでしょうか。
 10年10月にアフガン軍基地を取材したときのこと。米兵の下で、彼らは「タリバンを標的にした射撃訓練」「ヘリでタリバン基地を強襲し、人質を取り戻す演習」などを行っていました。演習が終了し、政府軍兵士たちをインタビューしました。彼らは口々に不満をのべました。「米兵は後ろで情報を流すだけで月何千ドル(数十万円)もの給与をもらっている。俺たちは一番危険な最前線に立つのに、給料はわずか200ドル(約2万2000円)だ」。巨額の人道支援金が注入されてきましたが、ガニ大統領(当時)をはじめとする政府高官がそれを中抜いて、末端にまで回っていなかったのです。一方、タリバンには「侵略者、アメリカを追い出すための聖戦」という大義名分があります。そして米軍は無人機による誤爆をくり返し、巻き添えになった犠牲者家族のなかから、ニュータリバンが生まれていました。通訳は「あの人たちの一部は、夜になったら地元のタリバン兵になるんだよ」と語りました。つまり民衆のなかに反米、反政府感情が渦巻いていました。アメリカは20年におよぶ「テロとの戦い」に約8兆ドル(880兆円)を費やし、約90万人の尊いいのちを奪った上で、「元のタリバン政権」に戻してしまったのです。テロという暴力を戦争という暴力で押さえ込むことは無理なのです。

■中村哲さんに学ぶ

 10年前ジャララバードで、中村哲さんと邂逅(かいこう)しました。広大なガンベリー砂漠に一本の用水路が掘りすすめられている。「この水路で15万人のいのちが救われる。ここは森になりますよ」 。そんな奇跡が本当に起きるのか? 半信半疑の私の前でスコップを片手に水路を掘りすすむ労働者たちは、この間までパキスタンに逃げていた難民でした。
 19年12月に中村さんが殺害されました。私は中村さんの偉大な事業を風化させたくなかったので昨年10月、また現地を訪れました。奇跡は起きていました。砂漠が森になり果樹園ができていました。「このオレンジも、小麦も、みんなナカムラのおかげだ」。人びとはみんな笑顔でした。ジャララバードでは治安の関係で、私は車から降りることができませんでしたが、そこから車でわずか1時間のガンベリー農園は治安が安定していて、自由に取材することができました。「平和は武力ではなく、小麦やコメで勝ち取るものですよ」という中村さんの言葉を思い出しながら、笑顔の人びとを撮影しました。この用水路の工事費用は約23億円。880兆円使ったアメリカがこの国を破綻させ、23億円の中村さんが国を再建していました。どちらが正解だったかは一目瞭然です。
 日本のすすむべき方向はアメリカに追随するのではなく、中村さんに学ぶことです。まず安保法制を廃止して、憲法9条の精神に立ち返る。不要不急の軍事費を削減して、コロナ対策に回すべきです。


 1960年生まれ。大阪市立大卒、吹田市役所勤務を経て、現在、フリージャーナリスト、イラクの子どもを救う会代表。2006年度「平和共同ジャーナリスト大賞」受賞。

(民医連新聞 第1748号 2021年11月1日)