コロナでなにが ⑧声を上げた保健所職員 一人ひとりのいのちに 向き合える体制強化を
国、地方自治体の政策により、1994年に比べて半減した全国の保健所では、コロナ禍で職員が疲弊し切っています。そんななか、大阪府では現場の職員が声を上げ、確かな変化を起こしています。大阪府関係職員労働組合(以下、大阪府職労)執行委員長の小松康則さんに聞きました。(丸山いぶき記者)
「やっぱり政治がおかしい」
大阪の保健所は府に9つ、政令市、中核市に各1つの計18カ所しかありません。この20年で3分の1以下にまで減らされ、人口270万人の大阪市にも保健所は1つしかありません。それがコロナ禍で深刻な事態を招いています。重症患者数が急増した第4波につづき、第5波では感染者数が爆発的に増え、健康観察などの負担が増大し大変な状況です。
大阪維新府政は、ひっ迫する業務をコロナ以外の業務の圧縮や、外部委託、派遣で乗り切る方針。しかし、公務員に課せられる守秘義務、住民サービスを担う責任を、利害関係のある民間企業や十分な賃金保障のない個人に負わせられません。「正規職員を増やして」の声は上がり続けています。
知事は、1度も現場に足を運んでいません。保健所職員は、知事の政治的パフォーマンスのような記者会見で初めて政策を知り、対応を迫られます。現場で噴出する不都合を聴取し改善する仕組みもありません。
過労死ラインを超える時間外労働に加え、患者や医療機関、施設などへの対応の最前線にいる保健師、保健所職員たちは、心身ともに疲弊し切っています。
■当事者が起こす変革
昨年8月から私たちは、「大阪府の保健師、保健所職員増やしてキャンペーン」を始めました。保健所の多岐にわたる仕事を知ってほしいと考え、SNSで活発に発信し、オンライン署名を実施。困難に直面する当事者の保健所職員が声を上げ、変革を起こす挑戦でした(参考‥『コロナ対応最前線 仕方ないからあきらめないへ』日本機関紙出版センター)。
大阪維新府政の公務員バッシングは、現場職員にボディーブローのように効いています。そんななか、「声を上げてもいいんだ」という思いがひろがり、記者会見で現場職員が発言できたことはすごいことです。結果、多くの賛同を得て各保健所保健師1人の増員を勝ち取りました。この十数年なし得なかった快挙。9月からようやく他部署の正規職員の応援配置も実現しました。
■「選挙に行こう」が響く
うれしいことに、大阪府職労の役員に占める女性の割合が、初めて6割になりました。キャンペーンを通じて声を上げた子育て中の保健師3人や、看護師2人を含め平均年齢は44歳。キャンペーンでも、私たちが言うまでもなく、「やっぱり政治がおかしい」という声が、現場の職員から出てきました。激務のなか、独自の要請行動や学習会にもつながっています。
コロナ禍で、自分たちの仕事や府民のいのちと、政治が深く結びついていることを実感した現場の職員には、いま、ただ「選挙に行こうよ」という呼びかけが、素直に響くと感じています。
大阪府職労のツイッターアカウント @fusyokuroでは、保健師や保健所職員の声を発信しています。一部を紹介します(以下、省略部分は「…」)。
◆2020・8・25 …大切なのは数や統計では見えない一人ひとりのいのちの重み。そこに向き合うのが公衆衛生の仕事。
◆9・6 …府の保健所業務の効率化なんてほど遠い…大阪市廃止で特別区設置でよくなるとは思えない。住民投票よりコロナ対策を強化して…
◆9・25 自殺未遂の深刻な相談も増えている。…継続してていねいに支援しなければならない人が増え続けている。…
◆10・16 …かつての保健所では保健所職員が草の根的に地域に出向き、課題を拾い上げていた。いのちにかかわる課題に向き合うための人と時間が必要…
◆11・14 9月くらいから頭が回らなくなり、今までに経験のないケアレスミスが続く。産業医に相談すると「脳がアラート状態」とのこと。…
◆2021・1・2 大晦日に出勤し、帰宅したのは深夜0時過ぎ。…深夜3時にコールセンター経由で在宅療養中に症状急変と連絡があり対応。そして今日2日も出勤。…
◆4・13 職員を増やすという単純なことがなぜできないのか理解できない。…職員を大切にすることが府民サービスの向上になることを知ってほしい。
◆4・21 変異株の怖さや感染力の強さなど…啓発し、予防のために活動することは、公衆衛生、保健師活動の基本だけど、余裕がなくて十分にできないことがつらく、申し訳なく…
◆5・4 大阪府がトップダウンで作った入院フォローアップセンター…完全に機能不全…患者さんとの対応や療養先の判断をすべて保健所の責任にしつつ、入院や転院の要請がことごとく断られます。…
◆8・25 18:30を過ぎて50件近い発生届。…自宅療養も増え、健康観察もかなり負担…入院先がなく「見捨てるのか」と怒鳴る方も…心の余裕がなく謝ってばかりで情けなく…
◆9・2 連日2000人、3000人…保健所管内でも100人、150人を超える発生…深夜までがんばっても翌日への積み残し…「もう限界」という声があちこちから…今すぐ人を増やして…
(民医連新聞 第1746号 2021年10月4日)