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民医連新聞

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2021 選挙に行こう 今年8月から 低所得者を施設から閉め出す 介護保険「補足給付」の改悪撤回を

 8月より、介護保険の「補足給付」が改悪されます。全日本民医連は5月27日、「補足給付の見直しの中止を求める団体署名」(以下「団体署名」)940通を厚生労働省に提出し、記者会見。民医連としてとりくんだ「補足給付の見直しに関するアンケート調査」(以下「調査」)の結果もしめし、改悪の撤回・中止を求めました。(多田重正記者)

 補足給付とは、施設入居者の食費・居住費に関する負担軽減制度です。
 施設入居者の食費・居住費は、もともと介護保険の給付に含まれていました。しかし国は2005年、「ホテル宿泊時と同様に払うべき」と改悪を実施し、全額自己負担としました。このときに負担があまりに大きいことから、低所得者である住民税非課税世帯の負担軽減策として導入されたのが補足給付です。
 ところが、この低所得者対策を縮小するというのですから、矛盾は深刻です。

食費負担

年26万円の負担増となる人も

 補足給付の改悪は、主に2つあります。
 第1に、食費の負担増です。
 介護保険加入者の収入は8段階に区分されています。第1~3段階までが補足給付の対象で、本人・家族全員が住民税非課税の世帯です。今回の改悪では第3段階をわざわざ2つに分け、第3段階(2)(本人の年金収入120万円超)の食費負担を大幅に増やします。施設入居者の場合、月額5万9000円から8万2000円へと、実に2万2000円も跳ね上がります(図1)。
 「年間に換算すれば、26万4000円の負担増。これは非常に大きい。とてもまかなえないとの声があがっている」と語るのは、ちどり福祉会(福岡市)の特別養護老人ホーム「いきいき八田」の事務長、川本正己さんです。入居の申し込みをためらい、「待機者にすらなれない」要介護者が続出する危険すらあります。
 前述の調査では、民医連以外の施設を含む17施設(特別養護老人ホーム9、老人保健施設8)が回答。第3段階(2)は、第3段階536人中211人(39・4%)が該当することが判明しました(図2)。「ちどり福祉会が運営する2つの特養でも、第3段階48人中、少なくとも16人が3段階(2)にあてはまることがわかった」と川本さん。
 短期間の施設入所(ショートステイ)でも、第2段階~第3段階(2)まで食費負担が増え、1日あたり210~650円の増額となります(図3)。

資産要件

対象を狭めて給付から除外

 第2に、資産要件です。
 これまで預貯金などの残高が「本人1000万円以下」(夫婦で2000万円以下)という基準でしたが、8月から本人の要件が厳しくなります。第2段階で650万円以下、第3段階(1)で550万円以下、第3段階(2)で500万円以下に引き下げられます(図4)。
 ちどり福祉会の調査では、2つの特養で第3段階48人、第2段階13人のうち、それぞれ9人、1人が資産要件の改悪により補足給付の対象からはずされる可能性が高いことがわかりました。「補足給付の対象から外れたら、ひと月あたり3万5000~6万9000円程度負担が増える人も出てくるのではないか」と川本さんは危惧しています。
 資産要件は2014年の介護保険法改悪で導入されたものです。銀行の預貯金はもちろん「タンス預金」まで申告が必要となりました。通帳のコピー提出まで求められ、ケアマネジャーなど介護事業所の職員がコピーをとらなければならない例も発生し、現場に混乱をもたらしました。
 さらに、全日本民医連事務局次長の林泰則さんは、次のように語ります。
 「資産要件の導入にくわえて、世帯分離しても、配偶者が課税なら補足給付が受けられないという改悪も実施されたため、離婚した夫婦が民医連として把握しているだけでも2件あった」

利用者・家族から怒りと不安の声

 今回の改悪に、調査では利用者・家族から「見直しがあることを知らなかった」「少ない年金の中から何とかやりくりをしています。見直しをもう一度検討していただきたい」「自分たちの商売もうまくいっていないのに、母(入居者)に対していつまで支援できるかわかりません」などの怒りと不安の声が()。
 なぜこんな改悪が行われるのか。厚生労働省は、居宅サービス利用者や、助成(補足給付)を受けていない施設利用者との「公平性」を理由にあげています。
 しかし補足給付の対象は、住民税非課税世帯です。「低所得者向けの軽減策を縮小する根拠にはなりません」と林さん。「しかも今はコロナ禍で、家族の支援も難しくなっています。コロナ以前に決められた補足給付の改悪を強行するのは言語道断です」と力を込めます。
 林さんは補足給付の改悪にあたり、「国が施設入居者の負担能力をまともに検証した形跡はない」と指摘します。「たとえば第3段階(2)の食費は、月2万2000円もあがります。私は、厚労省との交渉の席で『入居者の負担能力を検証したのか』と聞きました。しかし同省の官僚からは『検証したが、検証不足の点が多く、公表できなかった』との返事しか返ってきませんでした」。結局、2万2000円の食費負担増(第3段階(2))も、第4段階の平均負担額との差の半分を増やすという以上の根拠はないのです。

国のねらいは全財産を吐き出させること

 資産要件の改悪についても厚労省は「介護保険三施設()」では「約98%の入所者が15年以内に退所している」「介護保険三施設の本人支出額の平均と年金収入を比較し、補足給付を受けながら本人の年金収入で15年入所することができる水準とする」と説明(同省社会保障審議会介護保険部会、2019年12月16日)しています。
 つまり「全財産を吐き出せ」というのが国のねらいです。「お金がなくなるころには『入居者も死ぬでしょ』ということ。介護を受ける権利・人権を無視している」と川本さんは憤ります。
 介護事業所や医療機関などから集めた団体署名でも、「年金をもらうまでに2000万円必要と言われているのに、せっかく貯金を貯めても、結局取られて終わり。がんばって貯めた人が損する構造。どんだけおかしい制度なの?」との厳しい声が寄せられました。
 厚労省は、将来的に不動産も資産要件にくわえることを検討しています。さらに、不動産を担保に借金し、所有者が亡くなったときに、不動産を処分して返済にあてる「リバースモーゲージ」の活用まで視野に入れています。

医療現場にも影響必至 「14年改悪前に戻せ」の声を

 補足給付の改悪は、高齢者施設だけでなく、医療現場に通じる問題でもあります。
 厚労省によれば、老健が受け入れている入所者の51%が病院からの紹介です。補足給付の縮小で食費が増えたり、補足給付が受けられない人が増えれば、退院先が見つからない患者が増える事態も懸念されます。
 預貯金や不動産などの資産にもとづいて負担を求める手法は、医療保険制度の改悪に向けた政府の審議でもたびたび浮上してきました。介護保険を突破口として、医療保険制度に持ち込まれる可能性もあります。
 「補足給付の改悪はまだまだ知られていません。ぜひ多くの職員に、補足給付の改悪を知ってほしい」と林さん。
 「今後、増えた請求金額を見て、びっくりする施設入居者が続出すると思います。具体的な事例をもとに、今回の改悪を即刻取りやめることを引き続き求めるとともに、少なくとも資産要件などを導入する2014年の改悪以前の条件に戻せという声をあげていきましょう」

※介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設(病院・診療所の介護療養病床)のこと。2018年に始まった介護医療院も含む。

(民医連新聞 第1741号 2021年7月19日)