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民医連新聞

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人権のアンテナを高く掲げ③ 高すぎる保険料、窓口負担 医療とどかず失われたいのち 2020年手遅れ死亡事例調査

 6月9日、全日本民医連は厚生労働省記者会で「2020年経済的事由による手遅れ死亡事例調査概要報告」の会見を行いました。調査は2005年より毎年実施。昨年、全国から寄せられた40事例は、早期に医療にかかることができれば救えたはずのいのちです。失われたいのちから見えてきたものを報告します。(稲原真一記者)

 本調査は病院、診療所など全国706民医連事業所から、(1)保険料などの滞納により無保険もしくは資格証明書、短期保険証により病状が悪化し死亡に至ったと考えられる事例、(2)正規保険証を保持しながらも、経済的事由により受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例、を集約したものです。
 冒頭、全日本民医連事務局長の岸本啓介さんがあいさつ。調査はコロナ禍で行われ、全体の2割にその影響が見られたと指摘しました。「不安定な経済状況の人たちが、解雇や雇い止めで一気に困窮し、健康状態の急速な悪化と医療へのアクセスが困難になった結果」と分析。すべての事例で、経済的困窮がいのちや健康に多大な影響を与えており、高齢者の医療費窓口負担2割化などの負担増で、「今後さらに同様の事例が増えるだろう」と懸念を示しました。「低所得者への十分な収入保障や窓口負担の軽減があれば、いまよりも救えるいのちがある」とし、社会保障全体の改善に向けたとりくみが必要だと訴えました。

保険があっても受診できず

 報告は全日本民医連常駐理事の久保田直生さんが行いました。2020年は総数40例で昨年よりも減少しましたが、「事例は氷山の一角。コロナ禍で、そもそも医療にかかれず亡くなった人も増えている可能性がある」と強調しました。
 世帯構成では独居が14件で全体の35%を占め、その住まいの多くは借家やアパートで、社会的な孤立の健康への影響が示唆される結果です。
 受診前の保険では、無保険・資格証明書の実質「無保険状態」の人が合わせて13人の32%でした(図1)。一方で正規保険証や短期保険証などを持っている人でも43%が治療中断中か未受診であり、窓口負担が受診抑制を招いていることがうかがえます。
 合わせて国保法44条(医療費窓口一部負担金の減免制度)の適用と、無料低額診療事業(以下、無低診)の認知について調査を行いました。前者の適用はわずか3件、無低診は10人しか知りませんでした。
 死因の約6割はがんで、その他の3割は心疾患や呼吸器疾患、多発重症褥瘡(じょくそう)や重度の両足壊疽(えそ)など、劣悪な食生活や生活環境が背景にある事例が目立ちます。

コロナ禍、困窮者に追い打ち

 新型コロナウイルス感染症の影響が認められた事例は8件あり、多くの事例が失業や収入減少から受診控えや治療中断になり、重篤化、死亡に至った事例でした(図2)。
 60代の歯科技工士(自営業)の男性は、夫婦ともにコロナ禍で大幅な収入減に。昨年8月ごろより嘔吐(おうと)をくり返していましたが、市販の胃薬でしのいでいました。9月に入っても症状が改善せず、受診すると、レントゲンで腸閉塞、血液検査で炎症が認められ、緊急入院。進行がんの末期と診断され、11月に亡くなりました。
 別の50代の男性は日本語教師をしていましたが、コロナ禍で無収入に。糖尿病のインスリン治療をすすめられていましたが、外出自粛と経済的理由で中断。頻回の嘔吐を主訴に受診した時には血糖値が288mg/dlを超え、脱水症状も出ていました。入院を強くすすめましたが拒否されたため、何かあればすぐに受診するよう伝えました。しかし、後日会社から両親に「連絡が取れない」と知らせがあり、自宅で亡くなっているのが確認されました。遺体は死後10日ほどたっていました。

■いま求められること

 調査は困窮者の「無保険」が医療を諦めさせ、セーフティーネットから切り離されることを明らかにしています。国や行政には、無保険者をつくらせない抜本的な対策が求められています。
 保険証を所持している人であっても、窓口負担を理由に治療中断や受診控えが起こり、手遅れになることがわかりました。久保田さんは「保険料と窓口負担の二重徴収は国際的にもまれで、医療費は無料という世界の流れに逆行している。二重徴収の見直しが求められている」と言います。
 政府も「生活保護は国民の権利」と認めるようになりましたが、いまだに保護申請をさせないための“水際作戦”が行われている例もあります。「最後のセーフティーネットである生活保護を、誰もが安心して相談・申請できる環境整備が必要」と訴えます。
 現行の負担軽減制度も十分な周知や運用がされておらず、適用範囲の拡大や申請手続きの簡略化なども必要です。「そもそも高すぎる保険料を国庫負担の増額などで軽減し、誰もが払える制度に見直すことが重要」と指摘します。

(民医連新聞 第1739号 2021年6月21日)