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民医連新聞

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診察室から 「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び…」

 私は山梨県で小児科医として勤務しています。唐突に紹介した見出しの文言は、1945年8月15日正午、昭和天皇による終戦の詔書、いわゆる「玉音放送」の一節です。
 これは先日、外勤先で、あるベテラン小児科医が外来中につぶやいた一言でした。県内の新型コロナウイルス感染対策の最前線にいる彼は、世間では第4波が猛威を振るい始める中、外来中に続々と県内の新規感染者が報告されるたびに、外来をいったんストップしては保健所や感染対策室と連絡をとりながら患者の振り分け業務に追われていました。「無意識にふと思いついたせりふなんだよ」と、彼はヘトヘトな顔で笑いながら私に教えてくれました。
 玉音放送の内容の是非はひとまず置いておくとして、コロナ禍における社会情勢は、ある意味でまさに戦時下と呼べる状況です。ほとんどの医療従事者は、まさか自分がこのような形でひっ迫した医療情勢のたたかいに身を投じることになろうとは夢にも思わなかったことでしょう。
 私たちの小児科外来では、コロナ流行後に以前にも増して目立つのが、起立性調節障害(OD)など自律神経トラブルの受診です。頭痛、めまい、嘔気(おうき)、腹痛、動悸(どうき)、全身倦怠(けんたい)感などの症状から、朝起きられない、不登校、昼夜逆転などで生活リズムがガタガタに崩れた子どもが多く受診してきます。コロナ休校明けから登校したものの、学校生活になじめず、それでも無理して登校し続けた結果、校内で倒れてしまった子もいました。中には「学校に行きたくない」とはっきりと公言してくれる子も。背景には、周囲の環境変化や友人関係、家族関係からの家庭内トラブル、もともとの発達特性から来るものなど、さまざまな理由から心理的・社会的なストレスを負って発症するケースが多いのです。
 「子どもたちの生活に、ただならぬ異変が起きている」と率直に感じられる日々の外来です。みんな、自分らしくのびのびと育ってほしい。耐え難かったら、耐えなくていいんだよ。忍び難かったら、泣いていいんだよ。つらくなったら、またいつでもおいでよ。ぼくでよかったら、話をきくよ。いまだ出口が見えないトンネルの中で、子どもたちにとって、うっすらと灯る光のひとつでありたいと願う、不肖な一小児科医のつぶやきでした。(鎌田康弘、山梨・甲府共立病院)

(民医連新聞 第1739号 2021年6月21日)