相談室日誌 連載498 本当は救えたいのち 「助けて」言えない患者支援(和歌山)
昨年11月にK地域包括支援センター長から「経済的困窮のある人ですが、無料低額診療事業で受診できますか」と相談がありました。翌日、Aさん(70代)は当院に入院しましたが、全身状態が悪く、ほとんど手のほどこしようがないまま、5日後に亡くなりました。生活歴を知るために妹宅を訪問し話を聞き、部署内でも事例検討をして「救えたいのちではなかったのか」と話し合いました。
妹からの聞き取りでは、Aさんは離婚を経験し、子どもとともに実家へ戻って両親の援助を受けました。後に自身も仕事を始め親子3人で独立して生活を始めました。しかし、子どもたちが義務教育を終え進学し始めた頃から、生活費や学費で経済的困窮がいっそう深刻化。ついには多額の借金をつくり、債権者の取り立てが厳しくなって一人で夜逃げをしました。それから世間から身を隠すように生活してきました。住所を持たず、無年金、無収入で親戚の家で生活します。数年前にある病院で乳がんを指摘されましたが、治療を拒否し放置していました。当院に入院してすぐ本人に生活保護受給の申請の話をしましたが、「ええよ」と断られました。
私たちは事例検討において「援助拒否はどうしてか」「支援希求能力が低下しているのはなぜか」と話し合いました。職員の意見は、「住所を登録したり、生活保護を申請したりすると自分の居場所が知れ、また債権者に取り立てられることを恐れたのではないか」と推測しました。
妹への聞き取りでも同じ意見でした。つまり治療拒否、支援拒否ではなく、このような理由から支援希求能力が低下し「助けて」が言えなくなっていたのでしょう。当院への入院前に地域包括が援助し国保を取得しています。実は住所登録は残っていたのです。本人は国保を取得したことを知ると「国保が取れて良かった」と少し微笑んだと聞きました。
私たちはAさんの事例を通して、「助けて」が言えない人たちにどのように接し、援助すれば良かったのかを考える機会をもらいました。
救えたいのちだったと思っています。
(民医連新聞 第1738号 2021年6月7日)
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