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民医連新聞

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2021 選挙に行こう 国民の権利より国・企業の利益を優先 こんなに危険 デジタル改革関連法

 デジタル改革関連法が5月12日に成立。同法は6つの法律からなり(表1)、関係法律は64本におよびます。菅政権は今国会でこれらを一括審議し成立させました。審議時間は衆参両院あわせてわずか50時間あまりで、個人情報のコントロール権も明記されていません。医療・介護を担う私たちが注視すべきことは? 同法の危険性を考えてみます。(編集部)

知っておきたいAIの危険

 デジタル改革関連法の危険性を考える上ではずせないのは、AI(人口知能)によるプロファイリングの問題です。
 AIは、学習・推論・判断といった人間の知能の持つ機能を備えたコンピューターシステムです。プロファイリングではデータを集積・解析して、データの相関関係や個人の行動パターンなどを抽出します。抽出されたパターンを活用して、個人の趣味嗜好(しこう)、健康状態、心理状態、性格、能力、経済的な信用力までAIが予測・分析し、特定の目的に利用して、その反応・結果を検証して、さらにデータを収集するサイクルです。私たちも、SNS広告などでその一端に触れる機会が増えています。
 しかしAIは万能ではありません。何をデータとしてあたえるかによって結論が異なる、可能性を一般化して予測から外れる人を排除する(下コラム参照)、人ではないコンピューターで結論を導くことによる過程の不透明性、過度な誘導により自己決定権を侵害する危険などが指摘されています。
 そもそも公権力が個人情報を利活用するには、範囲を最小限とし、個別に法的権限を明記し、要件を厳格に定める法整備が不可欠。情報伝達が高度化しAIが広まった現代ではなおさらです。EUでは、一般データ保護規則(GDPR)で本人の同意を大原則に個人情報を保護し、コントロールする権利も保障しています。

民主主義さえ脅かされる

 一方、日本のデジタル改革関連法は「デジタル社会の形成が、我が国の国際競争力の強化及び国民の利便性の向上に資する(デジタル社会形成基本法第1条)」と掲げており、国民の権利保護よりも情報の利活用に偏っています。
 デジタル庁は、総理大臣を長とする強大な組織として誕生します(常設庁初)。そのもとでマイナンバーにひもづけられる預貯金口座、健康保険証、運転免許証、医師・看護師など32の国家資格所持者(表2)の登録情報などを一括管理。同庁には民間企業から100人以上が登用され、利害関係を有する民間企業が関与できます。
 他方、個人情報保護制度は一本化され、地方自治体についても共通ルールが設けられるため、多くの地方自治体が築いてきた先進的な個人情報保護条例(オンライン結合規制=オンラインによる個人情報の提供禁止など)が後退する可能性が指摘されています。とくにオンライン結合規制は、日本経団連など財界が廃止を求めてきたものです。監督権限は「個人情報保護委員会」に一元化されますが、政府から独立した機関ではなく、監督機能は不十分です。
 個人情報を国が集中管理することに「監視社会の再来」を危惧する声も。戦前の日本では政府と警察が一体となって国民を監視・弾圧。その反省から警察組織は細分化され、同組織を管轄する内務省は解体されました。しかし近年、警察官僚を内閣府で重用するなど政府と警察の接近が顕著です。デジタル庁、内閣情報調査室、警察が一体化して国民を監視し国民の言論・行動を抑制したり、AIで誘導して自己決定を阻害するなど民主主義を脅かす危険を指摘する法律家団体もあります。

「行政手続きが便利になる」と言うが

 では、国が言う「デジタル化で行政手続きが便利になる」は本当か。ここにも問題が隠されています。デジタル化とともに国は、情報通信技術、AI、マイナンバーカードなどの普及で、行政窓口を縮小・無人化し、自治体職員を半分に減らそうとしています。
 「総務省は『窓口をなくさない』と言いますが、デジタル化を推進する担当者と周辺からは、窓口の縮小・廃止の提案がくり返し提案されています」と語るのは、日本自治体労働組合総連合(自治労連)の中央執行委員・川村哲さんです。行政手続きの「オンライン化」が拡大すれば、回線や機器を用意できない人はサービスから排除されます。また書類や手続きでわからないことがあっても、問い合わせ先が縮小・廃止されれば、住民は不便を強いられます。
 「窓口には住民の困難に気づくアンテナの役割もある」と川村さん。「税を滞納している人がいれば、ライフラインが止まらないように水道料金を優先して払ってもらう。窓口に来た住民の表情から、家庭内暴力や児童虐待の発見につなげることもあります」。

自治体独自の給付・減免制度も後退?

 自治体独自の給付・減免制度が後退する可能性もあります。
 デジタル改革関連法の1つ「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」は、標準化をはかる自治体サービスとして、17業務を列挙しています(表3)。情報管理システムが国に一本化されるため、17業務に該当する自治体独自の給付・減免制度などは、自治体が個別にシステムを改変(カスタマイズ)しなければ追加できません。
 すでに、周辺7自治体と共同でクラウド(インターネットでつながる情報管理システム)を導入した町で「3人目の子どもの国保税免除」「65歳以上の重度障害者の医療費免除」を提案した町議会議員に対し、町長がクラウドのカスタマイズ費用を理由に拒否した例が出ています(2018年、富山県上市(かみいち)町)。
 自治労連のヒアリングでも総務省は「カスタマイズは想定していない」と回答(今年2月)。子どもの医療費無料化も全国に広がっていますが、自治体の制度で、対象年齢などはさまざまなため、制度が後退する自治体が続出するおそれがあります。

社会保障の給付抑制に使われる危険も

 デジタル改革関連法でマイナンバーにひもつけて預貯金口座を把握できるようにされたことも問題です。閣議決定「骨太の方針2015」は「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」と題して「医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める」しくみを「検討する」とのべています。
 保険料や自己負担だけではなく、個人の金融資産まで国が把握し、給付抑制に使いたいとのねらいです。今後マイナンバーを利用した個人ごとの給付抑制策が導入される危険もあります。
 デジタル技術の活用そのものは、避けられない時代の流れです。しかし国がすすめるデジタル化には、多くの問題が隠れています。個人情報の保護を強化する法改正や、デジタル化を突破口とした行政サービスの後退・社会保障抑制などを許さないとりくみが求められています。

◇  ◇

 全日本民医連は5月13日、声明「デジタル改革関連法(デジタル監視法)の成立に強く抗議する」を発出しています(全文はホームページ)。


あれからどうなった?マイナンバーとマイナンバーカード

黒川 充 著

 マイナンバー制度がはじまって5年。9月のデジタル庁の発足でその普及が強よめられようとしています。すでにマイナンバーカードを健康保険証にすることも可能になりました。著者は、最大の問題として、「番号が漏れたら恐い」「カードを落とすと危ない」はもちろんのこと、個人情報の集積でプロファイリングされ、監視・選別される社会がやってくると指摘します。
 かつて、ナチスドイツが国民の個人情報を集積して、ユダヤ人の選別や徴兵に活用した歴史に学ばないと、やがて人権がないがしろにされる社会に突きすすむと警告しています。

価格:1600円+税
発行:日本機関紙出版センター
電話:06(6465)1254

(民医連新聞 第1738号 2021年6月7日)