人権のアンテナを高く掲げ② 社会的な重症者を見逃さない 電子カルテの改善に挑戦中
貧困と格差に立ち向かう活動に着目するシリーズ「人権のアンテナ高く掲げ」―。第2回は、千葉民医連の気になる患者情報の共有と、支援につなげる仕組みづくりへの挑戦です。きっかけや「まだ途上」と語られる活動の到達、展望から、たくさんのヒントが見えてきました。(丸山いぶき記者)
電カルが慢患管理の障害に!?
千葉民医連では電子カルテの導入に伴い、「慢性疾患(以下、慢患)管理活動ができなくなった」との声が現場から届くようになりました。以前は「定期検査のお誘い」など付せんや紙を紙カルテに挟み共有していましたが、電子カルテでは視覚的な注意喚起が行いにくい、というのです。
船橋二和病院で医療情報システムを担当している佐々木史幸さん(事務)は「電子カルテを活用し、その人のライフサイクルを診られる慢患管理にしたい」と模索をはじめました。念頭にあったのは、SDH(健康の社会的決定要因)の学習で思い出した、約25年前の千葉健生病院の地域訪問活動。食生活アンケートで、みそ汁を飲んでいる人は体調が良く、3食バランスよく食事をしている傾向をつかみました。「あれこそSDH。慢患管理の視点は日常の医療活動に根付いている。慢患管理ツールの充実が、SDHやHPH(健康増進活動拠点病院)活動につながると考えた」とふり返ります。そこで、全国で同一の電子カルテを利用している民医連ユーザー会で慢患管理システムの開発要望をとりまとめ、メーカーとの協議を開始しました。
■地域から学び、役立ちたい
その後、電子カルテの改善を県連医活委員会の活動に位置づけ、埼玉民医連のとりくみを学び、具体化を始めました。
一つは、2019年に船橋二和病院と千葉健生病院の電子カルテ上に組み込んだ、気になる患者情報の登録機能。職員なら誰でも簡単に登録でき、一覧にして外来診療委員会で議論し支援につなげようという試みです。コロナ禍で職を失った20代女性からの受診相談が、複数ある実態もつかみました。ただ、職員数も職種も多い病院でのとりくみは容易ではありません。「報告してもどうなったか、リターンがない」「専門職はその場で支援につなぐため、登録の必要性を感じない」など、複数の課題が見えました。
とりくみの進展に期待する職員もいます。友の会の役員を通じて地域から相談を受け、病院と連携して支援につなげている、船橋二和病院組織部の若尾智香子さん(看護師)と太田雅石さん(事務)です。診療現場を離れて初めて見えたことも多く、地域からの期待を実感しています。「職員ひとりひとりが、困っている患者の背景まで掘り下げ支援につなげられるよう、まずは定期的な多職種カンファレンスを開けるようになれば」と若尾さん。太田さんは、「友の会の方々は人権の感度が高く、見習うことばかり。地域のSOSに応えている役員さんたちの思いを生かすには、地域の雑談の中にこそある貴重な情報を専門職の視点で集約し、日常的に地域全体を把握、アプローチできる仕組みづくりが必要」と話します。
診療所での情報共有は
他方、県連内8カ所の診療所がどのようにSDH情報を管理しているか把握し、改善の要望に応えようと、2019年6月から「HPH・SDH電子カルテラウンド」も行いました。各診療所のシステム委員が参加する県連電子カルテ担当者会議が診療所を訪れ、看護師長から同診療所の実践報告を受け各事業所に持ち帰ろう、というとりくみです。「診療所ではパート事務職員も含め、気になる患者報告を積極的にしていて、先進的で感動した」と佐々木さん。
南浜診療所では、電子カルテのプロフィール欄に「いつも会計で1万円札⇒認知症が疑わしい」など、患者の気になる点を記載。看護部の紙の記録ファイルにも記載し、毎週火曜の昼礼で共有しています。同診療所の松岡角英(すみひで)所長は「全職種が集まるこの気になる患者カンファレンスは、実は20年以上前から行われている」と話します。形骸化していた時期もありましたが、6~7年前から復活させ支援につなぐしくみも定着。多職種が自由に意見を出せる、チームづくりの場になっています。深掘りすべき事例について議論する月1回の専門職カンファレンスや、在宅支援サービスを含む南浜グループで3カ月に1回、担当者会議も行っています。
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「社会的に重症な患者を絶対に断らない。そのために、医療現場にとどまらず喜んで外に出て行く。それが、私たち民医連が昔から得意としてきた活動」と松岡さん。県連の医活委員長として、「病院でも症例検討からはじめようと医局が動き出した。そこから多職種での情報共有につながることを期待している」と話します。
(民医連新聞 第1737号 2021年5月24日)