介護の未来をひらく 特養あずみの里裁判をたたかって 連載(10) 予想を超えて広がった署名 賛同や激励も多数 福岡・佐賀民医連副会長 医師・田中清貴さん
全国の仲間の奮闘で「無罪」を勝ち取った特養あずみの里裁判。そのたたかいや教訓をふり返る、連載第10回は、福岡・佐賀民医連副会長の田中清貴さんです。
特養あずみの里裁判は、医療の現場で働く者にとっても衝撃的でした。ふつうに介護をしていて、その結果に対して刑事責任が問われる事態は、2006年の大野病院産婦人科医逮捕事件で感じた恐怖を思い起こさせるものでした。
私たち福岡・佐賀民医連でも、無罪判決を勝ち取るためのとりくみを行いました。2019年2月に宮地理子弁護士と長野県民医連の川北邦雄さんを招いて学習会を実施。その後も8回の県連ニュースを発行して裁判の経過を知らせ、「署名やカンパなどを通して抗議の声を」と訴え続けました。
民医連の仲間だけでなく、民医連外の人たちにも知ってほしいとの思いから、福岡県内の病院・特養・老健の923施設に「控訴審で無罪を求める要請書」の署名依頼を郵送しました。反響は予想以上でした。たくさんの署名が返ってきただけでなく、「死亡したから有罪と言う単純な結論は、看護・介護をめざす人びとの希望や意欲を断ち切られる要因ともなりかねません」「介護職の給与は大切な人生を預かるには到底足りない賃金です。それでも高齢者や障害者およびその御家族の力になれればとがんばっている人材の芽を摘むようなことは、厳に慎んでいただきたい」「当院全職員約290名中197名が署名協力を申し出たように、多くの支援者が存在していることをお伝えください」など、賛同や激励もたくさん寄せられました。
最終的には、民医連外の約170施設から8000筆以上の署名が寄せられ、民医連内を合わせると1万6000筆を超えました。
あずみの里裁判以降、STOP介護崩壊署名など、今までほとんど反応がなかった民医連外事業所からも、署名が戻ってくるようになりました。連帯の輪が広がりつつあります。
より良い、より安全な介護・医療を続けていくためには私たちの努力も大切ですが、それだけでは限界があります。多くの人たちと連帯して、介護や医療の制度を改善し、さらには刑事裁判の制度なども含めて、社会を良くするとりくみを続けることの重要性をあらためて感じました。
特養あずみの里裁判とは
2013年、おやつのドーナツを食べた入所者が急変し、のち死亡。その場にいた看護職員個人が業務上過失致死罪で起訴された、えん罪裁判。無罪を求める署名のべ73万筆余りが集まり、20年7月に東京高裁で逆転無罪。
(民医連新聞 第1737号 2021年5月24日)