2021 選挙に行こう 男女が等しく大切にされる社会へ 憲法の視点を交えてジェンダーを考える 太田啓子弁護士に聞く
民間非営利団体「世界経済フォーラム」が3月末、「ジェンダーギャップ指数2021」(表)を発表、日本は156カ国中120位でした。性差別解消に向けて、できることは何か。ことし秋までには総選挙もあります。日本国憲法の視点を交えて、性差別・性暴力の問題で積極的に発言している太田啓子弁護士に話を聞きました。(多田重正記者)
性差別解消に逆行 自民党改憲案
―120位という結果をどのようにご覧になっていますか。
日本がジェンダーギャップ(※)で遅れた国だというのは日本でも共通認識になりつつあると思います。ただ、ジェンダーギャップ指数で上位の北欧の国々も以前は日本と同様に性差別がひどかったんです。1970年、国会議員に占める女性の割合はノルウェーが9・3%、スウェーデンは14%でした(図1)。今では39・6%、43・6%へと改善していますが、国が性差別の問題を意識的にとらえて、施策を打って変えてきたからです。日本では、性差別解消に向けた女性の声が執拗(しつよう)なバックラッシュ(反動)でつぶされ、性差別が温存され続けてきました。
日本国憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と定めています。性差別解消を訴える女性たちは平等、対等な存在として扱われたい、「個人として尊重」されたいわけです。ところが自民党は「個人」という言葉が嫌いです。自民党改憲草案(2012年)は、13条の「個人」の「個」を削除し「人」にしている。他で代替できない存在という「個人」をあえて代替可能な「人」に置き換える発想は強く警戒すべきです。「個人より家族・国家が大事」と個人を最優先にしていない。
―改憲案は、第24条に「家族は、互いに助け合わなければならない」と書きこもうとしていますね。
家事・育児・介護などのケアは「女性が担うもの」という性別役割分業観が強い状況下で「家族は互いに助け合え」というのは、女性が家族のための自己犠牲をさらに強いられることにしかならないでしょう。暴力や性差別が横行する家庭では、個人を守るために家族から解放する必要もあります。改憲案の24条は個人がもっとも大切との発想からは遠いものです。
―「家族の助け合い」を強調するのは社会保障抑制のねらいも?
そうだと思います。菅首相は露骨に「自助」を掲げていますが、安倍政権時代も「貧乏人は貧乏人同士で助け合え、金持ちのお金をなぜ貧乏人救済に使わなきゃいけないんだ」という発想だったのでは。保育所の定員増も女性に働いてもらい、足りない労働力を補う視点からの議論がされていますが、経済とは別に人権問題としてとらえた施策をとるべきです。
「男らしさ」を問い直す
―太田さんは著書『これからの男の子たちへ』で「有害な男らしさ」が「インストール」される害を指摘していますが、具体的には?
私は離婚事案も多く扱っています。経済格差をカサに着て、妻に「文句を言うなら俺と同じだけ金を稼いでみろ」などと女性蔑視的な発言を隠さない夫をたくさん見てきました。「男らしさ」の価値観を子どものころからインストールされた結果、勝ち負けでしか自分を肯定できず、女性より「上」にいることから抜け出せないのだと思います。しかし生まれながらの差別主義者はいません。社会のどこかで性差別的な価値観を持つように育ってきたのだと思います。作家・ボーボワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉がありますが、男性にもあてはまる。
ですから大人が「男らしさ」とされるものを問いなおすとともに、加害者にならないために子育てのなかでできることはないかと考えて書いたのが『これからの男の子たちへ』です。「有害な男らしさ」は感染しますから、ワクチンを打っておきたいんです。
私には2人の息子がいます。私は1回も「男は泣くな」「それは男(女)のやること」なんて言ったことはないのに、息子から言ってきて(笑)。「いったいどこでそんな言葉知ったの?」って驚きました。子どもは家庭だけでなく、社会・学校などの影響を受けて育つんだと実感しています。
「男は稼げ」とよく言われますが、たとえ励ますつもりだったとしても、「女性はそうでなくてもいい」という隠されたメッセージとともに伝わる。例えば「男はたくましく」と言いますが、性別を問わず人なら誰でもたくましさは良いことでしょう。社会には女性と対等な関係を築くことを邪魔するメッセージがたくさんあります。本の読者からも「兄は浪人して東京の私大に行ったのに私は地元の国公立大しかダメと言われた」「弟はごろごろしているのに、私だけ家事を手伝えと言われた」などの体験が寄せられています。
性暴力を軽視する言説も子どものまわりにあふれています。「スカートめくり」「カンチョー」など、明らかに性暴力なのにそれを冗談とか悪ふざけのように扱うのは、性暴力を軽視する感受性をつくりかねないと思います。
昨年、生駒市(奈良県)のある中学校で、男子生徒が女子生徒の着替えなどをスマートフォンで盗撮し販売していた事件が発覚しました。しかし公表されている市教育長の見解は「スマートフォンやSNSの怖さを伝え指導してき」たなどと、性暴力という本質から目をそらしたものでした。性教育が不十分すぎて「性」について子どもに正面から伝えることを避けてきたから性暴力を起こした子どもに本質的なことを教えられないのでは、と危機感を持ちます。
対等な関係を築くために
―ジェンダー平等に向けて、私たちにできることは。
やっぱり選挙ですね。政党は候補者の男女のバランスを考え、有権者も、女性候補者に投票する。
また、いろんな場がジェンダー平等になっていくように常に意識する。たとえば、シンポジウムを企画する際は男女同数にするとか。
そして性暴力の実態を知り、性暴力を告発している人をささえる。世界でも女性へのバッシングはひどいので、告発した人が孤立しないように支援が必要です。
男性が自ら男性性を問う発信も増えています。作家の白岩玄さん、文筆家の清田隆之さんの文章など、興味深く読んでいます。
幼少期から家庭や学校で正しい性の知識を教えることも大事。
働き方も子育てや介護中の人が管理職につけない現状を変えるために、会社や職場で知恵をしぼり「働き方改革」をすすめるべきです。ニュージーランドなんて首相が国連総会に赤ちゃんを同行させたりしているんですから。
※ジェンダーとは社会的・文化的につくられた性。
『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』太田啓子著(2020年)、税込1760円(大月書店)
太田啓子さん
弁護士。自民党改憲案に危機感を持ち、2013年より憲法出前講座「憲法カフェ」を開始。著書『これからの男の子たちへ』が反響を呼んでいる。
(民医連新聞 第1736号 2021年5月3日)