相談室日誌 連載495 困難な家庭環境支援にSDHの視点でかかわる(三重)
先天性甲状腺機能低下症の治療のために定期通院しているA君(小学6年生)は、軽度の知的障がいを抱えながらも、近隣の小学校に通っています。ずっと複雑な家庭環境のため、児童相談所、学校、行政、放課後デイ、児童委員、訪問看護、病院が連携し支援してきました。唯一の家族である実母は精神面の幼さがあり、オンラインゲームを始終行い、規則正しい生活や就労の定着は難しい状況です。
A君は「これからもお母さんといっしょに暮らしたい」と希望していたため、実母の生活立て直しの1年間、伯母宅で過ごしてきました。伯母宅では規則正しい生活はできていましたが、思春期を迎えたA君と伯母との関係が難しく、伯母から当院にSOSがありました。数日、A君は実母宅に戻ることがありましたが、実母と同じようにゲームに夢中になり、学校の授業に間に合わないことがありました。
母子がいっしょに生活することは、理想的ではありますが、「A君の将来のことを考えると、実母は生活能力も育児能力も低く、実母宅に戻さない方が良いのでは…」という意見もあります。
現在、実母の抱える問題としてあがっている“計画的に金銭管理ができないこと”“多数の異性との関係”“長続きしない就労”などを考えると、実母自身にも幼少期に家庭環境のストレスにより、成長過程で生じた障害があるように感じます。実母がただ悪いと判断するのではなく、健康の社会的決定要因(SDH)の視点を持ち、かかわる必要があると思います。
これからの生活の場として、実母から「放課後デイや施設のショートステイを利用しながら、二人で暮らしていきたい」と強い希望があり、ひとまず、実母宅で生活する方向となりました。
母子関係を保つことは保障されたものの、生活の面では不安が残ります。かかりつけ医療機関として、未来あるA君の自己決定権と受療権を守るための支援を、他機関と情報共有しながら続けていきたいと思います。
(民医連新聞 第1735号 2021年4月19日)
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