コロナ禍で見えた日本社会の矛盾 未来を変える絶好のチャンス 石川康宏さん 神戸女学院大学教授に聞く
新型コロナウイルス感染症の危機によって、この1年、世界中にさまざまな問題が起こりました。日本でも社会や政治の矛盾が噴出しています。その原因は何なのか、私たちはこれから何をするべきなのか。政治や市民運動に詳しい、神戸女学院大学教授の石川康宏さんに聞きました。(稲原真一記者)
コロナ禍にゆれる社会
―コロナ禍で私たちの生活は大きく変わりました。学生さんたちはどうでしたか?
3月18日が神戸女学院大学の卒業式でした。本来ならこの1年は、卒業生たちが互いの交流を深め、就職活動や卒業論文に精力的にとりくむ時期でしたが、それが思うようにはできませんでした。
感染拡大に、多くの人は個人で対応することの限界を感じたと思います。これには社会全体でとりくむことが必要で、政治の責任の大きさも痛感させられました。学生たちも同じです。バイトのシフトが減り、遠隔授業を余儀なくされても、政府が生活や学業の継続を支援してくれるわけではない。
政府のコロナ対応は非科学的で、不正確な数字を後追いしては、場当たり的に緊急事態宣言とその解除をくり返しているだけです。無責任であるだけでなく、無力なのだと感じている人も多いのではないでしょうか。
今の若い世代は、政治や社会が前向きに変わった経験をしていません。ですから、そもそも政治はあてにしていないし、政治家に期待することも少なかった。しかし、今回のコロナで、政治が無力だと自分がその犠牲になってしまうということがよくわかった。そこで、学生の中からも、学費の減免やアルバイトの減少に対する生活支援を政府に求める声があがるようになりました。
国民軽視の歪んだ政治
―学生に限らず、多くの人が政治に対する望みと、実際の政治との間にずれを感じていると思います。それはどこから生まれているのでしょうか?
もっとも大きいのは国民のいのちや暮らしを軽視している、いまの政府の姿勢です。感染防止のためにステイホームを強調していたのに、経済が停滞し始めると感染拡大の懸念を押し切ってGoToトラベルとかイートと言い出す。結果的にそれで感染を広めてしまいました。しかも、その間に生活や営業が困難になった人には、実効性のある支援をしない。それが女性や若者の自殺の急増にも影響していると考えられます。
医療現場への支援もまるで不足しています。アメリカから戦闘機やミサイルを買うことに多額の税金をつぎ込みながら(図1)、市民のいのちや暮らしを守ることには、さっぱり税金を使おうとしない。その非人道性は、海外との比較でも明らかです(図2・3)。
―日本ではなぜ、そのような政治が続いているのでしょう?
重要なのは政府の動きをチェックし、おかしいことはおかしいと声を上げる市民が少ないことです。歴史的に見ても、日本には多くの市民がたちあがって、自分たちの力でこの手に主権や人権を勝ち取ったという歴史がなく、すぐれた憲法はあるものの、それを使いこなすだけの力を持っていません。われわれの税金で賄われる政治は、そもそもわれわれのためにあるはずで、それにふさわしい政治を市民がつくっていかなくてはいけない。そういう主権者らしい主権者の意識を急いで育てることが必要です。
変化の兆しは
―最近の出来事の中に、何か前向きな変化はあったでしょうか?
民間放送のテレビ番組でアイヌ民族への差別的発言が行われる事件がありました。ネットを中心に批判の声が相次いで、テレビ局などはすぐに謝罪せざるを得なくなりました。20代のアイヌの知人は「ひどい発言だったが、それを批判する社会の動きはこれまでになかったもの」という感想をのべていました。
また「同性婚を認めない民法は違憲」という判決が札幌地裁で出されましたが、それを歓迎する声もとても大きなものでした。日本でも少しずつ、あらゆる個人の尊厳を等しく守り、おかしいと思うことには声をあげる、そういう人が増えてきていると思います。
政治の世界にも変化は起きています。2015年に結成された「市民連合」(※)などの呼びかけで「市民と野党の共闘」がつくられ、2016年以後のすべての国政選挙で野党が少しずつ前進をしてきました。みんなの一票を集めてまともな政治家を増やすなら、日本の政治も変えられる。そういう展望が開かれてきました。
転換のチャンス
―いまの私たちにできること、求められることはなんでしょう?
いろいろありますが、特に注目してほしいのは、今年の10月までに行われる衆議院選挙です。ここで野党が多数派になれば、政権は自民党・公明党から立憲民主党・共産党などの野党の側に移ります。歴史的な政権交代のチャンスです。市民のいのちと暮らしを第一に考える政治に向けて、主権者らしい力を、みなさんにはぜひ発揮してほしいと思います。
※2015年の安保関連法案に反対の声を上げた個人が集まり、安保法制の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳を守る政府を求めて結成。野党共闘を求め政策要望書を出している(「民医連新聞」2020年12月7日号参照)。
(民医連新聞 第1735号 2021年4月19日)
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