コロナ対策であと回し 自助努力はもう限界 声を届け 介護崩壊を防ごう
新型コロナウイルス感染症の感染拡大と保健所のひっ迫が、高齢者の暮らしをささえる介護施設や、在宅介護の現場を追い詰めています。介護現場の実態を取材しました。(丸山いぶき記者)
施設系介護の現場から
新型コロナウイルス感染症の第三波のクラスター発生件数は、飲食店や医療機関よりも、高齢者施設で増えています(図1)。
■クラスターは突然やってくる
昨年12月26日午後2時半、兵庫・老健ひだまりの里の藤岡裕子事務長のもとに、慌てた様子で職員から電話が入りました。午前中に転倒し骨折疑いで救急搬送した利用者の家族から、「車内で発熱し、2回の抗原検査で陽性になった」と連絡を受けたという内容でした。ただちに搬送先の病院に確認し保健所に報告。管理部を招集し、3時には全利用者の個室隔離を完了しました。「職員も私もびっくりしたが、昨年4月に策定したBCP(事業継続計画)のもと迅速に対応。ただ、陽性者の入院先がなく施設でみなければならなかったのは想定外だった」と藤岡さん。県の準備不足に憤ります。
計5人の利用者に陽性が出ましたが、職員一丸となり丸3日かけ全館清掃を行い、厚労省の感染対策マニュアルを徹底。感染性廃棄物は1日80箱、処理費用は200万円、PCR検査の自費分は360万円、対策費用は計1300万円にのぼりました。
藤岡さんが「全国でも事前の準備を」と強調するBCP。地域の協力法人と連携して策定した例もあります。山形虹の会や医療生協やまがた、ファルマネット山形、生活協同組合共立社など7法人が参加する、庄内まちづくり協同組合虹のBCPです(『民医連医療』昨年11月号掲載)。
今年度の介護報酬改定では3年間の猶予期間付きで、感染症や災害に対応したBCPの策定や訓練が義務づけられました。山形虹の会の井田智常務理事は「地域、他法人、行政とも連携して、医療・介護の側から何ができるか検討している」と話します。
■リスク判定が厳しい自治体も
独自ルールで濃厚接触者を厳格に判定する自治体もあります。昨年10月中旬以降、全国に先駆けて第三波が始まった北海道札幌市は12月、新型コロナウイルス警戒期間にとるべきPPE(個人用防護具)対応を改定。発熱対応や食事介助・口腔ケアではマスク・ゴーグル・手袋に加え、袖付きガウン・キャップを、移乗介助などでも袖付きガウンを装着し、それがなければ感染が出た場合に「中リスク」と判定され、14日間の就業制限を受けるという内容です。
北海道・勤労者福祉会の太田眞智子理事長は、「大変厳しいリスク判定基準で、必要な人に対して常時フル装備を求められている」と話します。ただ、保健所と密に対応を確認しながら職員と情報共有し「陽性者が出ても低リスクとなるように」と、当面、基準通りすすめる方針です。
在宅系介護の現場から
首都圏では第三波のピークの1月に、保健所が積極的疫学調査を諦める事態となり、在宅介護現場でも深刻な影響が出ています。
■ケアマネが保健所機能を!?
「保健所が機能していない」と話すのは、東京・ケアサポートセンター千住の石田美恵さん(ケアマネジャー)。23区の中でも独居の高齢者が多く、感染者も多い足立区で、利用者34人(うち独居13人)を受け持っています。
足立区は昨年8月、介護事業所で感染者が発生した場合に、事業所からまず担当ケアマネへ連絡させ、ケアマネから関係介護事業所へ状況説明の連絡をさせる、独自の「足立区ルール」を定めました。濃厚接触者の判断は保健所の役割ですが、「対応は遅く濃厚接触者の認定も甘い」と石田さん。その結果、感染者が出てパニックに陥る事業所職員への説明、濃厚接触利用者のPCR検査の付き添い、行政検査からもれた疑い利用者への検査や入院の手配、保健所の医師から電話診断を受ける認知症高齢者の援助など、過大な責任をケアマネが担っています。
同センターでは利用者7人の感染と、うち2人の死亡を経験し、メンタルヘルスケアも課題です。
■訪問介護の高い専門性
千葉県の民医連外介護事業所で登録型ヘルパーとして働く亀井貴子さん(59)は、コロナ禍での孤独と不安を訴えます。登録型ヘルパーは利用者宅へ直行・直帰で、移動と待機の時間は労働時間にならず、細切れの訪問や急なキャンセルもある不安定な働き方です。
当初はPPEもなく、「独居の高齢者に感染させ、死なせてしまうかもしれない不安を訴えても、事業所は『守る』と応えてくれなかった」と亀井さん。事務所はピリピリした雰囲気で、緊急事態宣言中は月1回の定例会もありませんでした。「仲間の誰が辞め、休んでいるかすらわからない」と言います。それでも「残りの23時間をなんとかひとりで生きている利用者を思うと、たとえ1時間でも役に立ちたい」と話します。
高齢ヘルパーが多い訪問介護事業所では、深刻な人員不足にも見舞われています。千葉勤労者福祉会では昨年8月、登録型ヘルパー8人が退職。求人への応募はいまだにありません。
ヘルパーはゴミ箱のゴミひとつから異変に気づくと言われ、利用者の個別性を理解し、急変にも対応できる、高い専門性を備えた職種です。同法人の門脇めぐみさん(介護福祉士)は「感染対策上の利用者の体調管理でも、ヘルパーの存在は欠かせない。そもそも、要介護認定が厳しくなる中、施設入所レベルの利用者が在宅生活を送れているのは、ヘルパーの高いスキルがあるから」と話します。
■ワクチンの優先接種は
3月3日、厚労省は病床がひっ迫する中、感染後も自宅療養せざるを得ない高齢者に対応するため、在宅介護職員も条件付きでワクチンの優先接種対象にすると表明しました。しかし、「感染、重症化リスクの高い在宅介護従事者を守るためではなく、陽性者対応でしかない」と門脇さん。国は、事業所の登録、従事者の意思などの条件を設けて陽性者の対応者を特定し、限定的に優先接種対象とする方針です。石田さんは「施設と違い、利用者のフィールドで感染防御することが、いかに大変かを知ってほしい」と訴えます。
現場の声が政策を動かす
宮城では「新型コロナによる介護崩壊を起こさせない」一点で共闘し、民医連外の診療所医師を中心とした週1回のWEB懇談と提言のほか、14団体からなる介護フォーラムでも県や仙台市へ要請をしています。宮城民医連も県内全介護事業所を対象に影響実態調査を実施し、1月27日に記者会見。データを示し(図2・図3)減収補てんなどを求めました。宮城厚生福祉会事務局長の大内誠さんは「行政からさみだれ式に出される通知の対応、かかり増し経費も、小さい事業所ほど苦労している。そうした声を必要な政策につなげるために調査、要請し、要望が形になってきている」と話します。
新潟民医連は2月12日、介護従事者のワクチン優先接種について県へ要請。現場の職員も参加し「今のままでは訪問看護ステーションと介護事業所の併設施設では、職員を分断し混乱させる」と訴えました。これに先立ち集めた署名は、初めて県内全介護事業所に呼びかけ、2週間で1割超140団体の協力を得ました。
(民医連新聞 第1734号 2021年4月5日)