相談室日誌 連載493 地域のつながり生かし支援 「まずは公助」を求めて(埼玉)
Aさん(80代男性)は若い頃、父親が経営する薬局を姉といっしょに切り盛りしながら勤勉に働いていました。しかし、友人にだまされ資産を失いました。その後60代で姉と2人で当地に引っ越してきましたが、仕事が見つからず貯蓄も使い果たし、生活保護を申請することになりました。
Aさんは近所の人にも優しく声をかけるような人柄で、いつしか医療生協の組合員活動に熱心にとりくみ、支部の運営委員として地域づくりを盛り上げていました。
当院には糖尿病や肺気腫で定期通院していました。猛暑の続く8月頃から熱中症や過呼吸で頻回に救急搬送されるようになり、入院することが増えました。Aさんの入院をきっかけに要介護状態だった姉は介護施設に入ることになり、Aさんはひとりの生活に不安が強くなり過呼吸を頻回に起こす悪循環に陥っていました。それでも「姉と過ごした家で生活したい。いつかまた姉と暮らせるようになりたい」と希望し、自宅での生活を続けていました。しかし、気持ちとは裏腹に家事を行う気力も落ち、生活がままならなくなって介護保険を申請。ADLはほぼ自立していたので要介護1の認定でした。精神的なフォローも含めて、公的サービスだけではAさんの生活をささえることはできませんでした。
そこで、病院から訪問診療と訪問看護を導入。地域の組合員にも協力を求め、食事を一品差し入れしてもらったり、家や庭の掃除など介護保険では賄いきれない部分をフォローし、職員も毎日のように安否確認の電話を続けました。人とのつながりの中でAさんは精神的にも落ち着き、次第に救急搬送されることもなくなってきました。職員と組合員の連携でAさんの生活をささえることができたのです。
政府は「自助・共助・公助」の理念の下、公的サービスをさらに縮小させ、住民同士のインフォーマルなつながりに丸投げしようとしています。しかし、高齢化がすすみ、地域のつながりが希薄となる中、「自助・共助」だけでは対応できないことがたくさんあるのです。医療生協の底力も発揮しなければなりませんが、「まずは“公助”がありき」ということを、患者・組合員とともに求めていきたいと思います。
(民医連新聞 第1732号 2021年3月1日)