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民医連新聞

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介護の未来をひらく 特養あずみの里裁判をたたかって 連載(5) 私たち現場の勝利宣言“その人らしさ”を守れる喜び 長野県看護協会 会長 松本あつ子さん

 全国の仲間の奮闘で「無罪」を勝ち取った特養あずみの里裁判。そのたたかいや教訓をふり返る、連載第5回は、長野県看護協会会長の松本あつ子さんです。

 特養あずみの里裁判で無罪を勝ち得たことは、介護現場で働くものにとって本当に意義あることだと感慨深い思いをしています。たたかったみなさん、そして支援に奔走した多くのみなさんに、心から敬意を表したいと思います。
 看護協会は、看護専門職が自分たちの役割を果たすために活動する職能団体です。それぞれの現場で私たちを必要としてくれるありとあらゆる人びとが、その人らしい生活を送ることを目的に活動しています。その活動の場は広く、特別養護老人ホームなど高齢者が生活する場では、看護職の役割をもって、介護職をはじめ多職種とともに仕事をしています。病院とは異なり、病気を治すことより、その人にとって快適な生活の場を提供することが求められます。施設に入所すれば転倒、転落、誤嚥(ごえん)などの危険のない生活を送れるとの印象があるかもしれませんが、高齢者の生活は、施設でも自宅と同じように、何が起こるかわからない危険をはらんでいます。
 一方、施設では家での生活の自由と楽しさを味わってもらうことを大切に、日々のケアを行います。利用者の持つ能力を最大限に発揮してもらうためにも、みんなで楽しむ運動をしたり、お茶やおやつの時間は生活の場として欠かせないものと捉えて、ケアを提供しています。その一連のケアの中で、今回の事例は起こりました。
 今回の裁判は、現場で働く職員に大きな衝撃をもたらし、誤嚥防止のため、利用者への固形のおやつの提供をちゅうちょするという事象が発生しました。利用者を守るため、同時に職員を守るために致し方ないと考えざるを得ないのでしょうか。人が生きていくうえで大切な食の可能性、そして食べる楽しみを奪い、私たち看護職の役割を奪うことになりかねない大きな事例だったのです。全国の看護職、介護職が裁判の行方を注視し、多くの仲間の声が司法の場に届き、無罪を勝ち得たことは、私たちを必要としてくれる人たちのために、役割を果たせる喜びを取り戻すことができた証し、歴史に残る私たち現場の勝利宣言です。
 今後も、この思いを忘れずに、私たちの責務を全うするべく尽力したい、とあらためて考えさせられる裁判でした。

特養あずみの里裁判とは
 2013年、おやつのドーナツを食べた入所者が急変し、のち死亡。その場にいた看護職員個人が業務上過失致死罪で起訴された、えん罪裁判。無罪を求める署名のべ73万筆余りが集まり、20年7月に東京高裁で逆転無罪。

(民医連新聞 第1731号 2021年2月15日)