相談室日誌 連載492 貧困は自己責任ではない いつでも頼れる病院として(福島)
Aさんは70代前半の男性。当院に定期通院している患者です。ある日、Aさんは「無料低額診療事業のことを聞きたい」と地域連携支援室を訪れました。以前からチラシを見て気になっていたが、自分が相談していいのかわからず、相談できなかったとのこと。生活状況を聞くと、収入は生活保護基準を下回り、自分の葬儀代として数十万円の貯金があるのみでした。
以前、近くに住む息子から経済的援助の申し出がありましたが、「息子であっても、人に迷惑をかけたくない」と断り、切り詰めた生活を送っていたそうです。Aさんは、せめて毎月の医療費だけでも安くなればと無低診を申請し、全額免除となりました。通知を受け取ったAさんは満面の笑顔を浮かべていました。その後もAさんは来院するたびに地域連携支援室を訪れ、「おかげで助かってるよ。あんたたちの顔見たら元気になる」と冗談を言っていました。
当院の無低診の減免期間は3カ月です。Aさんに再申請の意思確認をすると、「再申請はしたくない」との返事。お金を払わずに受診することに罪悪感を抱いていて、最初はうれしかったが、だんだんと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、無料では病院にかかりたくない、とのことでした。罪悪感を抱く必要はないと説明しましたが、Aさんは再申請を拒否し「もうちょっとがんばってみる」と話しました。思い返すと、Aさんは免除された一部負担金はどこが補てんするかを気にしており、地域連携支援室を訪れた時には、かならず「ごめんね、ありがとね」という言葉を残していました。Aさんの中では無低診や生活保護など社会保障制度を利用することは「人に迷惑をかけること」なのだと思います。
“低所得は自己責任”という風潮の中で、偏見を恐れて受診できない人が多くいます。貧困は自己責任ではなく、社会の問題です。権利としての社会保障制度を構築するためには、当院が地域でいつでも助けを求められる病院であり続け、貧困を可視化し、運動につなげることが大切です。Aさんが再申請を見送った時に「いざとなったら相談にのってくれる場所があるとわかっただけでも安心」と言ってくれた言葉で、そのことを再確認しました。
(民医連新聞 第1731号 2021年2月15日)