生活保護申請をためらわせる 親族への扶養照会はやめるべき 扶養照会は義務ではない 厚労大臣が答弁
コロナ禍で仕事や住まいを失い、困窮する人があい次いでいます。生活保護は最後のセーフティーネットですが、家族・親族に経済的な援助の可否を聞く「扶養照会」が広く行われており、生活保護の申請をためらう要因となっています。
支援団体「つくろいファンド」が年末年始の相談会で165人に行ったアンケートでは、大半の人が困窮していながら、128人(78%)は生活保護を利用していませんでした。うち34%は「家族に知られるのが嫌だから」と回答しています。
元福祉事務所のケースワーカーで社会福祉士の田川英信さんは、「そもそも、おじ・おばなどの3親等まで扶養照会の対象としている日本のあり方は異常です。諸外国では配偶者や1親等(子、親)が標準で(表)、日本と同じように厳しかった韓国でも、近年は見直しがすすんでいます」と言います。
「現場のケースワーカーにとっても、3親等まで扶養照会するのは膨大な手間がかかるばかりか、ほとんど効果がないのが実態だ」と田川さん。厚労省によると、扶養照会によって金銭的援助可能と回答したのは、照会件数のわずか1・6%です(2017年度)。
扶養照会の際に依頼するのは、金銭面の援助と精神面での援助の2つ。田川さんは、「一番お願いしたいのは、連絡をとり合う、話を聞くなどの精神的なささえ。しかし、金銭的援助を求める扶養照会によって、これまで続いていた関係が絶たれてしまう事例がたくさんある」と言います。書類が破られて返送されたこともあります。
■生活保護は権利
日本共産党の小池晃参院議員は1月28日の参院予算委員会でこの問題について質問。「生活困窮を親族に知られたくない人が申請をためらっている。このような扶養照会はやめるべきだ」と求めたところ、田村厚生労働大臣は「扶養照会は義務ではない」と初めて答弁しました。小池議員は、「扶養照会は法律事項ではなく、通知で決められたもの。総理は国会で『最後は生活保護がある』と言った。申請をためらわせるような扶養照会はやめるべきだ」と重ねて問いましたが、菅首相は明言を避けました。
田川さんは、「もともと扶養を頼める状態や関係があれば、生活保護にまでいたってないケースが多い。国の通知には、扶養が困難だと明らかな場合は扶養照会を『省略できる』となっているが、『省略する』に改めなければ、現場ではこれまで通りの扶養照会が続くのでは」と懸念しています。
そのうえで、「生活保護は憲法に保障された権利。本人の承諾なしに親族に連絡しない、という運用に変えるべきだ」と強調しています。
(民医連新聞 第1731号 2021年2月15日)