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民医連新聞

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診察室から ファーストペンギン

 女性医師のA先生は父の医院を手伝う傍ら、当院の訪問診療を担当してきました。その闊達(かったつ)な性格のおかげで、当院の往診センターが明るく、笑いの絶えない職場に変わりました。終末期を迎えた患者への対応が熱心なことで定評があり、アドバンスケアプラニングや緩和病棟手配の手際が良く、関係者から信頼を得ています。診療の中で語りきれないことを手紙にしたためて家族を励まし、亡くなった患者宅を訪れ、介護者にねぎらいの言葉をかけていました。
 そんなA先生が担当するBさん。三女Cさんが見守る中、老衰のため自宅で95年の生涯を閉じました。Cさんは定年退職後、神奈川と京都を往復しながら、母のBさんを4年間介護しました。CさんがA先生に宛てたお礼の手紙の一節を紹介します。
 先生とめぐり会えて母ともども充実した4年間を過ごすことができました。在宅介護という船に乗って、母と2人で漂流しているところを先生がファーストペンギンのように私たちによりよく生きることの大切さを伝えてくださり、母は穏やかな最期を自宅で迎えることができました。母の死を心穏やかに受け入れることができ、感謝しています。母からもらった言葉、笑顔、感謝の気持ちが記憶の中にはっきりと刻まれています。母の死は私にとってのゴールではなく、母の遺した言葉を胸にこれからの人生を紡いでいきます。
 先生のお手紙の一文一文が心にしみわたり、お返事の言葉がみつかりません。他界されたお父様から託されたことを受け止め、自分の道を切り開いていこうとする勇気。やはり先生はファーストペンギンです。そんな先生を心から尊敬します。母の遺影に「先生はお父様をめざして生きていかれますと、先生のお父様に天国で伝えてね」と頼むと、母から「承知しました」と返事がありました。
 A先生は父の医院を継ぐことになりました。主治医、介護者、要介護者という枠組みを超えて、かかわった人びとが人間として成熟を遂げたことに拍手です。(清洲早紀、京都・吉祥院病院)

(民医連新聞 第1730号 2021年2月1日)