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民医連新聞

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90歳の“夜間”中学生 (14) 健康が先か、学びが先か 文・斎藤百合子

 こんなこともあった。
 ある夏の日、昼間部の生徒が校庭から出て通路をひと回りしていたようだった。私は、10人ほどの生徒の塊を避け、柱のわきで立ち止まり、通過するのを待っていた。そこに、ひとりの男子生徒が正面からぶっつかってきて、私は仰向けに倒れてしまった。起き上がろうにも起きられず、みんなが寄ってきて起こしてくれた。頭が痛くて触ってみると、後ろに大きなたんこぶができていた。校門の前だったので、保健室で休んでいると、救急車のサイレンが聞こえた。私はそれに乗せられ、病院へ運ばれた。初めての経験。精密検査をしたが、幸いいのちに別状はなく、先生たちも安心した。
 もう一度、やはり夏のこと。駅から学校までは徒歩で40分ほどだったが、途中で足がもつれて歩けなくなった。携帯電話で学校に連絡したら、すぐに先生が迎えに来てくれた。前と同じ病院に運ばれ、軽い熱中症と言われ、ひと晩の入院だけで済んだ。

■花のトンネルを通り抜け

 夜間中学での学びは3年間が基準となるが、それぞれの都合により、3年間で卒業する人もいれば、さらに3年、そのあとも3年…、と9年の期間を保障してもらいたい人もいる。自分が納得できる学力を得たい、という願望の現れだと思う。
 私自身、この年齢だったから体力低下はすすみ、身体を自らコントロールできず、そのために学業の時間に遅れることを気にしたり、なぜか罪悪感をもったりした。健康が先か、学業が先か。それを混ぜ込みにして悩んだ。
 結局、私は3年間だけの就学で卒業することにした。同期生で、6年、9年と学びを保障してもらい、やり通す人もいるというのに。
 3年間で卒業したのは、私を含め7~8人、みな日本人だった。卒業式は2019年3月20日。卒業式会場は豪華に飾られ、廊下や階段も花々にあふれ、先生たちも当の本人もおめかししていた。校歌をはじめ、昔から歌われていた卒業式の歌などを歌い、あたたかな雰囲気に包まれ、盛り上がった。
 在校生からもらった花束を抱え、廊下の花のトンネルを通りぬけるとき、さすがに私も胸が詰まった。(つづく)


さいとう・ゆりこ
1925年、山梨県生まれ。大阪府在住。健康友の会みみはら会員

(民医連新聞 第1729号 2021年1月18日)