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民医連新聞

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平和 一人ひとりの思い重ね 核兵器をなくそう 日本被団協 児玉三智子さんに聞く 「助けて」と訴えたあの目が忘れられず

 2021年1月22日、被爆者の悲願である核兵器禁止条約が発効します。アメリカが広島と長崎に原爆を投下してから75年の歳月を経て、ついに世界は核兵器廃絶に向け動き出しました。千葉民医連の元パート職員であり、被爆者として核兵器廃絶運動の先頭に立ってきた、児玉三智子さん(日本被団協事務局次長)に聞きました。(稲原真一記者)

 「やっと…」。昨年10月、条約発効が決まった、との知らせを受けた児玉さんの率直な思いでした。目の前で亡くなった多くの人たちや、ともに活動し、先にこの世を去った被爆者の顔が次々と思い浮かびました。

■地獄を見た

 児玉さんが被爆したのは7歳のとき。当時、広島の国民学校に通っていた児玉さんは、爆心地から約4キロ離れた木造校舎の中にいました。突然、経験したことのない閃光(せんこう)と衝撃に襲われ、気がつくと、半身にたくさんのガラス片が刺さっていました。助けを求める友達に何もできないまま、必死に教室からはい出ました。
 迎えにきた父に背負われ、自宅へ帰る道中は“地獄”でした。全身が焼けただれた人、眼球が飛び出ている人、爆風で飛び出した内臓を抱えた人などがさまよっていました。忘れられないのは、同じ年頃の女の子のこと。半身が焼けただれ、目だけがギョロギョロとしていました。「『助けて、水を』とその目が訴えるんです。ですが私は、その子に声をかけることさえできなかった。今でもその視線が目に焼きつき、思い出すと涙が出ます」。ふり返ると、少女は倒れて動かなくなっていました。
 親戚のお姉ちゃんは家にたどり着いた3日後、児玉さんの腕の中で息を引き取りました。毎日下痢をしていたいとこのお兄ちゃんは、被爆から1カ月ほどたった頃、目の前で突然、大量の血のかたまりを吐き出して亡くなりました。「私も似た症状だったので、いつか同じように死ぬのではないかと、怖くて仕方なかった」。

■終わらない被爆

 人生の節目には、いつも被爆が重くのしかかりました。就職のときに「被爆者である」というだけで不採用になり、交際相手の親戚からは、「被爆者との結婚は認めない」と断られました。病院で被爆者手帳を見せると、「被爆者だ」と騒がれ、周りの患者から避けられたこともありました。
 差別・偏見の中、友人の紹介で家庭を持ち、2人の娘を授かりました。あるとき、子どもの小学校のPTAの読書会で戦争体験の話になり、それまで黙っていた被爆体験を初めて人前で話しました。
 2010年、それまで健康だった次女が、重度のガンと診断されました。複数の医療機関に相談し手を尽くしましたが、翌年2月に逝ってしまいました。「被爆者の私が子どもを産むことには葛藤があり、産まなければよかったとも思いました。しかし、私の目の前で無残にいのちを奪われた多くの人が授けてくれたと思い、産み育てることを決意しました。誕生した子は、明るく元気に成長したのに…」と言葉を詰まらせます。「核兵器は非人道的という言葉でも言い表せない。後の世代まで悲劇を残す核兵器は絶対にあってはならない」。落ち着いた口調の児玉さんが語気を強めて訴えます。

■変わり始めた世界

 以前、アメリカの高校で被爆体験を話したとき、高校生は「原爆投下は正しかった」と言いました。5年後、偶然同じ高校を訪ねると、高校生の意見は「原爆投下の正当性は検証が必要だ」と変化していました。2020年には、アメリカの18~34歳の約70%が「核兵器は必要ない」と回答しています。
 被爆者と市民社会の活動が実を結び、核兵器廃絶への重い扉がやっとひらきました。しかし、唯一の戦争被爆国である日本政府は、核兵器禁止条約への署名・批准を拒んでいます。
 昨年から、日本政府に条約への署名・批准を求める署名がスタートしています。多くの国民が声を上げ、無視できないほどの署名を積み上げれば、政府も動かざるを得ません。児玉さんは「国を動かし核兵器をなくすのは、市民社会に生きる私たちひとりひとりの思いと行動です。粘り強く、諦めないことが大切」と言います。

* * *

 全日本民医連では2021年末までに、新署名100万筆を目標に、とりくみが始まっています。各事業所で活動を具体化し、核兵器のない世界実現のために奮闘しましょう。


児玉さんに聞く!核兵器禁止条約、条文のPOINT

・これらの危険性は全人類の安全保障に関わり、全ての国が核兵器の使用防止に向けた責任を共有していることを強調する。(前文より抜粋)
児玉:前文では自国だけが良ければいいのではなく、世界中の人が手を取り合い、本当に平和な世界をめざすことが表明されている。
・第1条(禁止項目) 核兵器の開発、実験、製造、生産、獲得、保有、貯蔵、使用、威嚇。
児玉:威嚇も禁止したことで、“核の傘”に入ることも違法になったことが画期的。
・核兵器の使用による犠牲者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験による被害者にもたらされた受け入れがたい苦痛と被害を心に留める。(前文より抜粋)
児玉:「ヒバクシャ」という言葉を使い、第6条では国際人権保障の立場から、被害者個人の権利を守ることを明確にしている。

(民医連新聞 第1728号 2021年1月4日)