コロナでなにが ③保健所・公衆衛生行政 現場は慢性的な人員不足国の責任で医療体制強化を
10月12日、日本自治体労働組合総連合(自治労連)が「感染拡大期(4月)の保健所の職場実態調査」の中間報告と、保健所・公衆衛生行政の抜本的強化を求める記者会見を行い注目されました。いま求められる政策転換とは? 自治労連副中央執行委員長・長坂圭造さん、同・高柳京子さんに聞きました。(丸山いぶき記者)
自治労連は、自治体や公務公共サービスで働く労働者を組織する労働組合です。組合員には、保健所で働く保健師などもいます。各地の保健所からは「新型コロナウイルス感染拡大により職場が大変」との声が上がっています。住民に提供すべき保健所の役割を十分に果たせなくなる可能性があり、体制拡充が必要です。
そこで私たちは、第一波の時の保健所の職場実態調査をもとに、いま何をすべきか政策提言しようと、記者会見をしました。
■残業は過労死基準超え
全国の保健所を対象に、最初の感染拡大期(4月)の職場実態について回答を求め、7都府県32の保健所(支所を含む)から回答を得ました。4月の常勤保健師のサービス残業が「大幅に」または「少し」あったは4割。把握している残業最多時間数は東京175時間、神奈川186時間、大阪147時間で、過労死認定基準の80時間を超えました。人員は慢性的に不足し、4月は「全く足りなかった」が65・6%(図1)。人員不足は「他部署からの応援」で補った保健所が62・5%でした。
「仕事上、精神的にストレスを感じたか」の問いに「強く」または「まあまあ」感じた、は7割。「特にストレスを感じたこと」は「仕事の量」「住民などからのクレーム」と続きました(図2)。電話がつながらない不満から、国の政策への批判まで、住民の行き場のない不安がすべて、現場の保健師に向けられていました。
今後必要な対策は「医師・保健師等専門職種の人員の拡充」(27・2%)が多く、「専門職以外の人員の拡充」(16・0%)、「業務量の削減」(12・3%)、「第一波の結果分析と課題の総括」(11・5%)、「医療機関との連携」「人材育成」「労働時間の短縮」(6・2%)などが続きました。
■効率ではなくいのち最優先へ
1994年の保健所法の廃止、地域保健法の成立により保健所は変質しました。「感染症の時代は終わった」と言われ、それまでの業務は分けられ、保健所は広域的・専門的な保健サービス(第二次予防)を、市町村保健センターは直接住民に身近な保健サービス(第一次予防)を行うことになりました。保健所は都道府県、政令指定都市、中核市、特別区など二次医療圏におおむね1カ所とされ、92年の全国852カ所から、2020年には469カ所に半減。現在、1保健所あたりの人口は横浜市375万人、大阪市274万人など。25年間で保健所は、住民から遠い存在になりました。保健師の業務も、多くの自治体で高齢、母子など分野ごとに細かく分けられ、地域の実情を横断的に把握することも難しくなっています。
さらに自公政権は、10年前の新型インフルエンザウイルス流行時(民主党政権時)に作成された、専門家による総括報告書を放置。そこでは感染症対策の拡充、保健所や地方衛生研究所の組織人員の体制強化など、いま求められていることが提言されていました。
公衆衛生行政の縮小に拍車をかけたのが、公共サービスに新自由主義的な「効率」を持ち込んだ「行政改革」です。80年代から公務員を削減し、非正規に置き換え、業務の民間委託が加速。その結果、今の事態を招きました。
* * *
私たちは、いのちを守る保健所の体制強化へ、コロナ後も見据えた運動をつくりたいと考えています。人員体制の強化、感染症による差別・偏見をなくす情報提供などは、早急に実現しなければなりません。保健所を10万人に1カ所に増やすことも求められます。
住民が安心して暮らし、医療従事者も安心して働き、安全、安心の医療を提供できる体制を、国の責任で整備させるよう、ともに、医療政策を変えていきましょう。
(最新の調査結果と政策提言の詳細は、自治労連ホームページに掲載中)
(民医連新聞 第1727号 2020年12月7日・21日合併号)
- 記事関連ワード
- 組合員