診察室から あの時の答え、 ヒントはSDH
秋の日の昼下がり。公園で子ども2人といたところ、ある男性が水道で水を飲んでいました。風貌から生活に困窮していそうな様子にはすぐに気づいたものの、どうしたらいいのか、わかりませんでした。水を飲み終えた男性は誰と会話をするでもなく、とぼとぼと公園の外に歩いていきました。私は、その姿をただじっと見守ることしかできませんでした。あの時、どうすればよかったのか? いまだに答えが見つかりません。
生活環境や労働環境、社会構造といった健康を左右する社会的・経済的な要素を「健康の社会的決定要因 Social Determinants of Health (SDH)」と呼びます。コロナ禍は私たちの生命や生活に多大な影響をおよぼしています。問題を広い視点で捉えるためには、今こそSDHの視点が必要になります。生活の苦しさや格差にさらされている人にとって、医療機関、NPO、相談窓口などはまさに「駆け込み寺」になり得ます。では、日々の生活の中で私たちには何ができるでしょうか?
まずは「気づくこと」。生物心理社会的な困難を抱える人を見いだし、困りごとを聞き出すこと。目をしっかり見て、心から共感しうなずいて聞くだけでも、心理的な安心感やささえになりえます。
次に「つなぐこと」。資源は公的制度やサービスに限りません。職場のつながり、患者会、家族会、NPO法人、社団法人、趣味の会、一般市民など地域によって資源はさまざまです。医療生協の活発な組合員活動はまさに「地域の資源」ではないでしょうか。
さらに「寄り添うこと」。人や資源を紹介して終わりではなく、ともに歩む姿勢が必要です。生活の中で目にする「気になる光景」に対し、うるさくなく、わざとらしくなく、無理なく続けられる、日々の幸せのお裾分けの方法がきっとあるのではないでしょうか。
もしまたあの男性に会うことがあったら、まずは「こんにちは」と声をかけることから始めようと思います。同じ状況におかれた時みなさんはどうしますか?(千嶋巌、栃木・宇都宮協立診療所)
(民医連新聞 第1727号 2020年12月7日・21日合併号)