相談室日誌 連載488 経済的社会的困難抱える若年性認知症患者の支援(奈良)
60代後半のAさんは自営業でしたが、うまくいかず店をたたみ、職を転々としていました。5年前、仕事先のトラブルで退職。無職となり収入が途絶え、加えて無年金でした。その頃から認知症の症状があり、60代前半でアルツハイマー型認知症と診断されました。薬が処方されましたが経済的理由で中断。家で過ごす毎日でした。
妻は要介護5の実母を介護しており、Aさんのことを考える余裕はありません。Aさんは認知症の進行とともに、ガードレールを傘でたたいたり、ゴミ置き場からゴミを持ち出し、よその家に投げ入れるようになり、自治会に苦情が寄せられました。そこから当センターへ相談がありました。自治会から妻へ「Aさんを何か支援につなげたい」と伝え、妻も了承していました。
すぐに訪問し、話を聞きました。Aさんは、病気になるまでは家族を大切にし、おしゃれでカラオケ好き、穏やかな人だったそうです。衣服の着方がわからなくなり、言葉が出ずに意思の疎通が難しく、時には手をあげたり、警察を呼んだことも。無収入のため受診は難しく、生活保護の申請をすすめました。妻は以前、行政に相談した時に心ない言葉に傷つき、申請に踏み切れませんでした。無料低額診療事業や自立支援医療制度の利用などを提案しました。
地域では自治会のBさんがAさんの支援者になり、妻が抱えるしんどさを緩和できるよう、ささえてくれました。当センターとBさんで連絡をとりあい、Aさんと妻の思いを尊重し、支援しました。
やがて妻は、生活の立て直しを考え、生活保護を申請しました。Aさんは認知症の専門病院を受診し、中等度の認知症と診断され、介護保険の利用を開始。しかし、認知症の進行で集団に適応できないAさんが利用できるサービスは限られています。
60代前半で発症すると経済的な問題が大きく、親の介護とのダブル介護となるなど、介護者の負担も重くなります。地域の中で孤立してしまう場合もあります。国の「認知症施策推進大綱」にある「住み慣れた地域で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続ける社会をめざす」ために、認知症になっても安心して暮らせる地域づくりにとりくんでいきたいと思います。
(民医連新聞 第1726号 2020年11月16日)