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民医連新聞

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介護の未来をひらく 特養あずみの里裁判をたたかって 新連載 (1)長いたたかいに終止符 同じ苦しみくり返さないで 長野・特別養護老人ホームあずみの里松田賢(さとる)さん(介護福祉士)

 全国の仲間の奮闘で「無罪」を勝ち取った特養あずみの里裁判。今号から、そのたたかいや教訓をふり返る、新連載を始めます。第1回は、特養あずみの里の松田賢さんの寄稿です。

 私は、特別養護老人ホームあずみの里で介護職をしています。事故当時は、現場の介護主任として、今は現場の士長として、この間の裁判の経過を見守り続けてきたひとりです。特養あずみの里で事故が起きてから約7年、山口けさえさんが在宅起訴されてから約6年が経過しました。この間、全国の多くのみなさんのささえや励ましにより、山口さん本人はもとより、当法人にも多大なご支援、ご協力を賜りました。この場を借りて、感謝申し上げます。
 今年7月28日、東京高等裁判所(大熊一之裁判長)は、一審の有罪判決(2019年3月)を「予見可能性を適切に捉えていない」などとして破棄し、無罪判決を出しました。職場にいた私も、携帯電話で臨時ニュースを目にし、職員と心からの喜びを共有したことを思い出します。「長いたたかいに、ようやく終止符が打たれるのか」と、心の底から安堵(あんど)しました。また当日、東京高裁で判決を迎えた山口さんや仲間に対して、ねぎらいの気持ちが強く湧き上がってきたことを覚えています。
 特養あずみの里では、「一人一人の暮らしを大切にします」という福祉宣言のもと、利用者の生活と向き合っています。特養という施設の性質上、亡くなるまで、という意味合いも含まれています。利用者の生活の中での希望や喜びをかなえ、不安や悲しみを取り除けるよう、日々、気持ちをくみ取ることを大切にしています。
 一方、現場の状況は、二十数人の利用者に対して、介護職2~3人のスタッフ配置で対応しています。安全を確保するのに精いっぱいの場面が多いのも事実です。希望にそった生活の提供にはほど遠いことも多く、それが、「国が高齢者介護に突きつける現実」なのだと痛感しています。
 そうした状況下で、現場を気にかけ、優しく声をかけてくれる特養の看護師がいます。山口さんもそのひとりです。現場を思い、利用者を思い、介護職との連携を常に考える、山口さんのような職員がいるから、ささえ合えているのだと日々感じ、感謝しています。
 一審の有罪判決が確定していれば、介護職員は職場を離れ、介護現場の萎縮がすすみ、利用者の福祉が後退させられることは明白でした。現場で奮闘しているスタッフ個人に責任を負わせようとすることは、介護現場での利用者主体の生活意識をそぎ、介護の質をさらに低下させ、結局は高齢者の居場所を奪うことにつながることも明らかです。
 今後、私たちと同じ苦しみをくり返すことがないように、賢明な判断がされていく世の中であってほしいと、切に願います。


特養あずみの里裁判
 2013年、おやつのドーナツを食べた入所者が急変し、のち死亡。その場にいた看護職員個人が業務上過失致死罪で起訴された、えん罪裁判。無罪を求める署名のべ73万筆余りが集まり、20年7月に東京高裁で逆転無罪。

(民医連新聞 第1726号 2020年11月16日)