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民医連新聞

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天海訴訟 障害者を年齢で差別するな!介護を奪った千葉市を提訴

 重度の障害を抱え、福祉サービスを利用していた天海(あまがい)正克さん(71歳)は、65歳になると同時に「介護保険の利用が優先される」との理由で、千葉市から障害福祉サービスを打ち切られました。生存権を脅かす不当なもので、年齢による差別であるとして、天海さんは千葉市を提訴。千葉民医連は社会保障、人権を守るたたかいとして、署名などの支援活動にとりくんでいます。千葉勤医協の宮島光さん(SW)の寄稿です。

 重度の障害者の人たちは、障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律「障害者総合支援法」により、ヘルパーの介護や外出時の介助など福祉サービスを活用して生活し、社会へ参加しています。この「生活」という営みに、「応益負担」(受けたサービスの量によって負担する)は合わない、と全国の障害者たちが声を上げ、「応能負担」(その人の負担能力=収入などによって負担する)を勝ち取ってきました。

■障害者運動で勝ち取った応能負担を守りたい

 天海さんは月~土曜日の毎日2~3時間、障害福祉自立支援給付の居宅介護(ホームヘルプサービス)を利用して生活してきました。2014年7月、65歳の誕生日を目前にした天海さんは、千葉市への介護保険の申請を断り、障害福祉の居宅介護の利用継続を申請しましたが、却下されました。そして千葉市は天海さんが利用していた障害福祉の介護サービスを8月から打ち切りに。介護保険の利用申請はしていなかったため、介護サービスは全額自己負担で利用しなければならず、負担額は1カ月で約14万円に上りました。
 介護保険の利用を断っただけで障害福祉の居宅介護を打ち切り、生存権を奪った千葉市の対応は権限の逸脱であるとして、天海さんは2015年11月、千葉市を提訴しました。住民税非課税世帯の天海さんは、障害福祉の居宅介護を、自己負担なく無料で利用できていました。しかし、介護保険のサービス利用には、一部自己負担でも月1万5000円程度かかり、大きな出費となります。
 千葉市の処分は、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)7条にある「介護保険優先原則」によるものです。65歳になった途端、新たな負担を強いられるこの「原則」の適用は、65歳を迎える障害者共通の問題です。この問題の不合理、理不尽を訴える声は全国で沸き起こり、改善を求める運動に発展。厚生労働省は障害者総合支援法の一部改正を行い、2018年4月から、介護保険の自己負担分を同法で軽減(償還)する改善策を開始しました。
 天海訴訟と同様の訴えをした浅田訴訟は、一審、二審ともに全面勝訴となり、訴えられた岡山市は最高裁に上告せず2018年12月に判決が確定。この判決は、障害者総合支援法第7条は調整規定であり、介護保険優先を定めたものではない、と結論づけました。

■自治体の権限の逸脱

 訴えの概要は左上(法=障害者総合支援法)の通りです。天海さんの障害者総合支援法にもとづく申請を却下した処分の違法性を問うものです。
 天海さんはヘルパーの介助なしでは生活が成り立ちません。生きる基本のサービスであるにもかかわらず、サービスを打ち切ったことは人権侵害です。訴訟を支援する中で、私たちは天海さんの「勝ち取ってきた」という言葉に込められている思いから、障害者の自立と権利、そして運動とは何かを学び、理解を深めながらとりくんでいます。
 裁判の争点は、岡山の浅田訴訟と同様に、介護保険の要介護認定の申請をしないことを理由に、障害福祉サービスを打ち切ることは自治体の権限の逸脱であるか否か、という点にあります。
 現在、千葉地方裁判所へ「裁判所が原告の声に耳を傾け、適切な審理の上、判決を下されることを切に望みます」の署名活動(締切11月末)を行っています。多くの人たちの署名が力になります。ご協力をお願いします。

【署名協力】
https://amagai65.iinaa.net/


天海さんが訴えていること

(1)法7条:介護保険優先原則の適用場面は、要介護申請および認定と限定的に解すべき。また、受給者が自己負担の増加などの不利益を受けることなく、介護保険法の規定する介護給付より自立支援給付に相当するものを受けることができると解すべき
(2)法22条違反、法7条の運用:却下処分が原告の生存を脅かすことを知りつつ断行した。自治体ごとの運用実態に差があり被告の運用が唯一のものではない
(3)憲法違反・障害者の権利に関する条約違反:介護保険への強制移行は、障害者の自律と社会参加の機会を阻害するもので、障害者の権利条約に違反する

(民医連新聞 第1726号 2020年11月16日)