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民医連新聞

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菅首相の学術会議任命拒否 「医学は二度と戦争に協力しない」を脅かす 新医協顧問 岩倉政城さんに聞く

 菅首相が日本学術会議(学術会議)の会員選出について一部を任命しなかった問題。医療とのかかわりは? 新日本医師協会顧問の岩倉政城さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 国の根幹を成す問題に、直に手を突っ込んできたと感じます。太平洋戦争開戦前の1939年に渡辺白泉が詠んだ「戦争が廊下の奥に立ってゐた」と同じような恐ろしさを感じます。

■戦争中、医師は

 日本の医学界は先の戦争で医師会を解散し、医療団をつくり大政翼賛会に入って協力してきました。従軍すれば自動的に将校の地位が与えられました。戦時下での生体実験などの研究成果は、戦後は米軍に没収され、関与した医師、医学者は戦争責任を免れ、地位も奪われませんでした。
 新医協は終戦後の48年、「二度と戦争に協力しない」決意で誕生しました。学術会議の協力学術研究団体のひとつです。
 学術会議は先の戦争に科学者が協力した反省から、科学が文化・平和国家の基礎であるとして49年に設立。「戦争を目的とする科学研究は行わない」決意を内外に示してきました。発足2年間で21件の諮問への答申を行い、国の政策に反映させてきました。

■その役割を奪う

 59年、政府は学者同士で会員を選ぶ学術会議とは別に総理大臣が自分で選べる内閣への諮問組織「科学技術会議」を設立。諮問先をこの会に変更しました。その結果、62年以降、学術会議への諮問は年1回へと減らされました。
 同会議は総合科学技術イノベーション会議と名称を変えて内閣府に設置。メンバーは富士通、NTTなどの企業の幹部を加え、政府と経済界に有利な政策をすすめる拠点となりました。
 さらに67年には、文部省(当時)が学術審議会を新設し、学術会議が行っていた科学研究費の配分にかかわる審査もこの審議会に移してしまいました。
 学術会議は次第にその役割を奪われてきました。会員任命拒否は政府にもの申す組織を無力化する「総仕上げ」と言えるでしょう。
 国民は自ら納めた税金を使い、国政が正しく機能しているかを学術的な立場から監視する組織を必要とします。その役割を果たすのが学術会議。監視される側の政府が、監視する組織の人事に介入してはならないのです。海外の学術誌から批判は当然です(表1)。
 学術会議への予算は10億円で諸外国のアカデミーと比べて低い(表2)。交通費とわずかな手当て、調査費用の一部しか出ません。


表1 海外の学術誌が警鐘

〇「学術の独立を浸食」と批判『ネイチャー』(イギリスの科学誌)
〇日本の新首相は日本学術会議との闘争を選んだ『サイエンス』(アメリカの科学誌)
〇日本の首相が知的世界と戦争『ル・モンド』(フランス)
〇ソフトイメージを植え付けようとしていた菅総理の「非常な黒幕」『フィナンシャルタイムズ』(イギリスの経済紙)
〇高い支持率を持っていた菅政権が、…炎上を引き起こすだろう『ロイター通信』(イギリス)


■医療にとっても重大

 学術会議の民主的運営の実現と歴史を逆戻りさせないために、学術会議会員に新医協から久保全雄さんが立候補し選出されました。
 久保さんは、75年の総会で医療の情報化について警鐘を鳴らすなど、先進的な活動をしました。
 2015年、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」創設は軍事安全保障にかかわる研究への誘いです。16年に「科学技術イノベーション総合戦略2016」を閣議決定。医療、福祉や教育の現場にIT産業が進出し、250兆円もの儲けをめざしています。
 コロナ禍でIT化がすすみ、オンライン診療・投薬の定着が目論まれています。これこそ「コロナ便乗型資本主義」です。この動きと学術会議への介入の根っこは同じ。医療・介護現場で働くみなさんにとっても、学術会議の人事介入は他人事ではありません。


いわくら・まさき

 富山のイタイイタイ病発生地区に住む人の歯からカドミウムを検出し、1972年、汚染地図を発表。73年、宮城子どもの歯を守る会を結成。2006年から18年まで新医協(新日本医師協会)会長。

(民医連新聞 第1725号 2020年11月2日)