患者も職員も安心できる調剤と渡薬をめざし 薬局での新型コロナ対策 東京・地域保健企画 多摩薬局
薬局で働く職員も新型コロナウイルス感染症への恐怖の中、業務にあたっています。病院での患者数の減少に伴い処方せん枚数が減り、経営も厳しくなっています。そんななか、東京・地域保健企画の多摩薬局は、4月から発熱外来の患者への対策をすすめてきました。(丸山いぶき記者)
「感染防止のために、ご協力ください」。多摩薬局の入口横にある発熱患者用の待機スペースで、薬剤師が患者に声をかけます。傍らには、患者向けの看板がいくつも設置されていました。
■待機場所を新設し対応
多摩薬局は薬剤師20人、調剤補助事務10人で運営する大きな調剤薬局です。在庫が多く、分包機などの大型機器も備えているため、複雑な調剤が必要な患者が多く来ます。ピーク時間帯には7つある渡薬窓口がすべて埋まります。
4月2日、隣接する東京・立川相互ふれあいクリニック(以下、ふれクリ)が、新型コロナウイルス感染拡大の中でも発熱患者の受療権を守ろうと発熱外来を設置。多摩薬局は同院と連携し、4月8日からふれクリ発熱外来待合で発熱患者への渡薬(院内渡薬)を始めました。その後、感染拡大で発熱外来待合に患者があふれたため、4月17日には院内渡薬を中止。薬局の外に従来のインフルエンザ用とは別に待機スペースを設け、そこで渡薬を始めました。
発熱患者の処方せんは事前にふれクリからFAXで受け取り、他の患者との接触機会を減らすために特急で調剤処理します。防護具をつけた薬剤師が金庫と領収書を持参し、患者への渡薬指導、処方せん原本の回収、会計をします。バックヤードで防護具を外し手洗いうがいを実施。薬局待合室での密を避けるため、発熱以外の患者に外待ちコールの利用も呼びかけ、感染を防止しています。
■不安は尽きないけれど
感染の疑いが強い患者はコロナ病棟を設けている立川相互病院で診ます。そのため、ふれクリで処方を受け多摩薬局に来る患者は感染の可能性が低い患者です。しかし、対面で服薬指導をする薬剤師の不安は尽きません。「防護具や業務には慣れても、精神的な不安には慣れません。陰性の確証はなく、薬局では発熱患者のその後を追えないので」と話すのは副主任の駒井恵さん。最近になって、7月に同薬局を利用し、後に陽性の結果が出た患者が2人いたことがわかりました。薬剤科長の伊藤倫子さんも「はじめからフル装備の感染対策をしていて良かった」と胸をなで下ろします。子育て中の駒井さんは職員の不安がわかるだけに、「それぞれ事情があるので公平性をはかるために試行錯誤している」と手探りの奮闘をふり返りました。
発熱患者対応や定期消毒はマニュアル化し業務を整理しました。発熱患者への渡薬者が偏らないように配慮し、在宅訪問担当以外、非常勤職員も担当。朝会や役職者会議のほか少人数のチームで職員の不安な思いや意見を吸い上げ、「何日もかけて意思統一やマニュアルづくりをした」と伊藤さん。電話診療FAX調剤もフローチャートを作成し、実施しています。
藤田わかささんは「上司が配慮してくれるので“自分ばかり”とは思わない。4月にマニュアルを整備できたので、いま対応できている」と話します。発熱患者への渡薬は、防護具の着脱があるため3~4倍の時間がかかります。「いつも来てくれる人を待たせてしまい申し訳ない」と藤田さん。反面、重症化リスクが高い生活習慣病患者が、外出を控えていることも心配していました。
■経営は厳しくとも
地域保健企画では、5月に処方せん受付回数が前年同月比77・5%まで落ち込み、いまも1割減の状態が続いています(図)。代表取締役の島野清さんは、「医療・介護事業とともに国による減収補てんが必要」と訴えます。
薬局は、新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業の対象外です。「薬剤師もいつ感染するかわからない。実は陽性者が来ていて保健所の調査が入った民医連外の薬局もあると聞く」と島野さん。FAX調剤で薬剤を配送した際の患者負担金を支援する国の薬剤交付支援事業は、1薬局わずか5000円の予算で、多摩薬局で適用できたのは7人のみ。第2次補正予算で事業は復活しましたが、「いちばん必要な時期に機能しなかった」と指摘します。
「処方せんが減っても発熱患者やFAX調剤に対応しなくてはなりません。忙しいですが、中断事例にも目を向け、地域に求められる役割を果たしたい」と島野さん。
(民医連新聞 第1723号 2020年10月5日)
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