相談室日誌 連載482 高齢で働かざるを得ず病む 利用しやすい生活保護に(兵庫)
Aさんは数年前に、知人が当院に「保険証の有効期間が切れ受診できていない人がいる」と相談し、無料低額診療事業を利用することになった患者です。
70代で、同年代の夫と2人で暮らしています。住まいは親類の持ち家を借りています。自宅にお風呂はあるものの給湯器がなく、歩いて20分の距離にある銭湯へ通っていました。保険料を滞納していたため、保険証の期限は切れていました。
Aさんには年金がありましたが、夫が働かないと生活は困難でした。生活保護を利用できる収入状況でしたが、Aさんは、「夫が働けるうちは、生活保護を利用せずにがんばりたい。行政のお世話になるのは、それができなくなってからにしたい」と言っていました。「本当に困ったら相談に行きましょう」と話をし、無低診の利用を開始しました。年金の入る月に少しずつ保険料を納め、受診が途切れることはなくなり、夫も定期的に受診するようになりました。
「夫が脳梗塞で他院に入院した」とAさんから相談があり、いよいよ生活保護の相談をすることになりました。夫が当院へ転院してからしばらくして、Aさんから「夫に電話がつながらない。電話にでるように伝えてほしい」と連絡がありました。よく話を聞いてみると、Aさん自身も脳梗塞を発症し、別の病院へ入院している、とのことでした。
幸い2人とも軽症だったため、1カ月程度で退院しました。入院中に生活保護の利用が決定したので、2人とも入院費の心配をすることなく治療に専念できました。退院後、自宅にシャワーもつけることができました。
無料低額診療事業を利用していたことで、SWへすぐにつながり、生活保護の利用を開始することができました。しかし、生活保護に引け目を持たず、利用できる制度のひとつとして最初の相談があった時点で利用できていれば、体に負荷をかけて働き続けることなく、健康を維持できていたかもしれません。
生活保護へのマイナスイメージと、高齢になっても働き続けなければならない社会に対し、疑問を覚える事例でした。
(民医連新聞 第1720号 2020年8月17日)