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民医連新聞

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乳腺外科医師えん罪事件東京高裁判決 根拠なき有罪判決 専門家の証言を無視

 民医連の病院で働いていた乳腺外科医師が、術後の女性患者にわいせつ行為をしたとして、逮捕・起訴、105日間勾留されました。外科医師は一貫して無罪を主張しています。昨年2月、東京地裁は無罪としましたが、検察が控訴。7月13日、東京高裁は無罪判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を出しました。これまでの経過と裁判の争点について、「外科医師を守る会」の窪田光さん(東京民医連理事)に聞きました。

 多くのご支援で、一審で無罪を勝ち取れたことに感謝を申し上げます。高裁でも無罪を確信していましたが、不当判決に怒り、同日には判決に抗議する声明を出しました。病室の状況からも事実にもとづいた科学的な証拠からも、外科医師の無実を確信しています。
 2016年5月10日、右胸から良性腫瘍を摘出する手術を執刀した外科医師が、女性患者から「術後に左胸をなめるなどのわいせつな行為をされた」と訴えられました。患者は全身麻酔をしており、被害を訴えたのは術後から約30分。患者からスマホで連絡を受けた上司が警察に通報しました。通報から約2時間後に警察が病院に駆けつけ、患者の左胸から付着物を採取。鑑定の結果、外科医師のDNAが検出され、アミラーゼ鑑定で陽性反応が認められました。
 8月25日、外科医師は準強制わいせつの疑いで逮捕。その後、起訴され、105日間、勾留されました。外科医師は一貫して無罪を訴え、東京地裁は19年2月20日、「女性患者がせん妄状態であった可能性がある」「科学捜査研究所(科捜研)の鑑定に疑義があり、女性患者の証言の信用性を補強できない」として、無罪としました。しかし、3月5日に検察が控訴。20年7月13日、東京高裁は一審の無罪判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を出しました。

■せん妄の可能性を否定

 争点となったのは、患者の訴えが術後の麻酔から覚める際に発症した“せん妄”による幻覚かどうか、患者の証言を補強するDNA・アミラーゼ鑑定の信用性、科学的証拠としての許容性、の2つ。
 患者は術後に看護師に暴言を吐いたこと、同室患者にも聞こえるほどの大声を上げたことも覚えていません。弁護側は、麻酔学専門家と精神医学精神腫瘍専門家を証人とし、いずれも、せん妄の世界的判断基準であるDSM―5に当てはめても、「当時、患者はせん妄状態であった可能性がある」と証言しました。
 しかし高裁は、看護師の証言は患者に不利益な病院関係者の証言だとして退け、専門家の科学的知見も受け入れず、「せん妄の専門家ではない」と公言した検察側の臨床医師の証言を採用しました。

■科捜研のずさんな鑑定

 DNA・アミラーゼ鑑定について検察側は、採取したアミラーゼが会話による飛沫では説明がつかない量であり、「なめた」証拠だとしました。弁護側は実証実験を行い、術前の触診の際に手指の皮脂や汗などが付着した可能性があること、手術室で説明した時の会話で唾液の飛沫が飛んだ可能性があることを、法医学者の証言で明らかにしました。
 さらに、科捜研の鑑定は、科学的信頼性に問題があると指摘。鑑定時に記入するワークシートは鉛筆書きで、さらに消しゴムで消して上書きした跡が複数ありました。DNA定量値が重要と知りながらDNA抽出液は破棄、アミラーゼ検査で採取した証拠の写真がないなど、科学的客観性はありません。科捜研研究員は「私が見たから間違いない」と証言。高裁は「科捜研が虚偽の証言をする実益も必要性もない」と、同研究員の証拠の信用性を認め、科学的証拠を否定した判決を出しました。

■医療の萎縮を懸念

 この判決は、証拠を都合良く判断した「有罪ありき」と言わざるを得ません。患者の証言だけを重視する判決が通るのなら、医療従事者は安心して医療を提供できず、医療現場は萎縮し、患者の不利益となることが危惧されます。
 これまで「外科医師を守る会」には、6万1000筆余りの署名と1300万円超の支援金が寄せられました。支援金で鑑定に抗する実証実験を行うことができ、一審の無罪判決につながりました。
 高裁判決日から3日間で「守る会」への新規入会者は31人、支援金は約45万円寄せられました。「恐ろしくて外科医師になるのをためらう」「証拠もなく患者の証言のみで有罪となれば医療が崩壊する」「科学的事実にもとづいた司法が行われることを願います」など激励も寄せられています。
 日本医師会の中川俊男会長は、15日に会見を開き「身体が震えるほどの怒りを覚えた。今後、全力で支援する」と表明しました。外科医師の無実を確定させるため、裁判内容を広めることをはじめ、ひきつづきご支援をお願いします。


外科医師の無罪を勝ち取るための支援基金

【振込先】ゲカイシヲマモルカイ(外科医師を守る会)
ゆうちょ銀行 店名 〇五八(ゼロゴハチ) 店番 058
普通預金 7045221
※郵便局から振込の場合
記号 10510 番号 70452211
※詳しくは外科医師を守る会ホームページ(https://gekaimamoru.org/)をご覧ください。

(民医連新聞 第1719号 2020年8月3日)