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民医連新聞

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連載 学ぼう 運動方針③ 安心して生活できるよう幅広い支援を 民医連の災害対策・支援

 学ぼう運動方針―。シリーズ3回目は、民医連の災害対策・災害支援です。毎年のように大規模な自然災害が発生しています。44期運動方針は、生活再建支援の拡充、避難所の改善などを求めるとともに、災害時BCP(事業継続計画)など、各法人・事業所での対策を呼びかけています。全日本民医連副会長でMMAT委員会委員長の阿南陽二さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 全日本民医連は1953年6月の結成当初から災害支援にとりくんできました。直後に発生した西日本大水害では、大きな被害のあった熊本に全国から100人を超える救援班が1年間にわたって支援。当時、九州には民医連がありませんでしたが、これを通じて翌年に熊本民医連が誕生しました。
 95年の阪神・淡路大震災では、全国からのべ1万3000人以上が支援しました。神戸協同病院の上田耕蔵医師は、揺れによる災害で助かったいのちが、その後の避難生活で肺炎などによって奪われることに着目し、「震災後関連死亡」と名づけて警鐘を鳴らしました。当時、被災した住まいへの補償はほとんどなく、粘り強い運動で、今では最高300万円まで出るようになっています。
 2004年の新潟中越地震では、車中避難者でエコノミークラス症候群によっていのちを落とす人があい次ぎ、注目されました。

■MMAT活動で見えてきたこと

 全日本民医連は05年に災害救援活動マニュアルを策定し、11年の東日本大震災の経験を踏まえて指針に改訂。その方針のもとで16年、支援活動は民医連綱領にもとづくものであることを掲げ、MMAT委員会が発足しました。最初の活動は16年4月の熊本地震でした。全日本民医連の対策本部は熊本に隣接する福岡・米の山病院に設置され、現地対策本部は熊本・くわみず病院に設置されました。3つの点に着目しました。
 1つ目に、対策本部には多くの幹部職員が集まりましたが、本部の組織図がなく、指揮・命令系統が不明確でした。現地で緊急に学習会を行い、実地で組織図をつくりました。同じようなことは全国どこでも起こりうると気づかされ、災害対策本部のひな形を提示する必要があると考えました。
 2つ目は、現地の職員と支援者のヘルスケアです。被災しながら仕事を続ける現地の職員は体力的にも精神的にも疲弊します。ストレストリアージを実施し、計画的に休みがとれるようにしなければなりません。全国からの支援者にも、活動後のクールダウンや戻ったら必ず休日をとるなどのケアが必要です。
 3つ目に、大規模災害は日本中どこでも、明日にでも起きる可能性があることです。民医連の各事業所の対策状況を調べたアンケートでは、災害時のマニュアルがない、あっても訓練をしていない事業所が少なくありません(図1、2)。当初17年に予定していた研修会を16年の秋に前倒しし、5回の研修会を行いました。
 研修会のエッセンスは、MMATメンバーの活動の手引きとして作成した『MMAT必携』という小冊子にまとめました。全日本民医連のホームページでも見ることができるので利用してください。

■全ての事業所でBCPを

 事業所の対策の実態調査は12年、16年に続いて今年度中に実施する予定です。BCP(事業継続計画)のとりくみ状況を把握できていなかったので、今期は力を入れたいと考えています。
 被災地では医療機関も被害を受け、医療活動のパワーは通常より落ちる一方で、医療を必要とする人は急増します。通常診療をどこまで抑えて災害医療にシフトするのか、どう戻していくのか、具体的な計画が必要です。地震や水害のみならず、今回のコロナ禍でも同じように求められます。すべての事業所、法人、県連にBCPの策定を呼びかけたいと思います。

■コロナ禍での災害対策

 7月、九州を中心に広範囲で豪雨災害が発生しました。内閣府は4月にコロナ禍での避難所運営のガイドラインを公表。各都道府県も同様の内容を公表しています。
 しかし、実際にはガイドライン通りには実施できていません。日本は災害多発国でありながら、避難所の環境が劣悪で、食事や衛生上の問題などが解決されていません。環境整備と被災者が一刻も早く安定した住まいに移れるようにすること、災害関連死を出さないことに本気でとりくまなければなりません。支援に行く人は、事前にPCR検査を受けられるようにし、感染対策の徹底も必要です。
 災害からの復旧・復興には長い時間がかかります。生活上のさまざまな問題も発生します。医療費免除や住宅再建の課題では、行政への申し入れ・提言、諸団体と力を合わせてたたかうことも必要です。民医連の災害支援活動は、当面の医療にとどまらず、すべての人が安心して生活できるような幅広い支援をめざしています。


BCPをコロナ禍でも活用

大阪・耳原総合病院 田端志郎さん

 大阪・耳原総合病院では、BCPを新型コロナで活用しています。同院の医師・田端志郎さんからの報告です。

 2015年の耳原総合病院新築にあたり本格的にBCPを策定することにしました。外部アドバイザーの指導を受け、15年度末からBCP策定の作業を始めました。
 大災害が起きた際、どの事業を継続するか、経営を維持し、どのように事業を回復していくか。まず法人の幹部を対象に、5回の大規模地震模擬訓練を開始。「院長だったら」「看護の責任者だったら」と想定。事前に決めておくべきことが山ほどあると気づきました。
 当院は災害協力病院であると同時に、200人以上の透析患者がおり、月70人程度の分娩も行っています。当院が死守すべき事業を、災害医療、透析、産科の3つに設定しました。
 策定作業では、発災から1時間で達成すべき目標を決め、何が必要か、逆算して考えました。この作業を半年ほど続け、それにもとづいて訓練し、足りない部分を改善。組織図をつくり直し、災害対策本部のもとに診療調整部門と総合調整部門をつくりました。
 対策本部立ち上げ基準のひとつに「職員の一部が出勤できない」とあり、18年以降、台風による鉄道の運行中止に伴い、毎年2~3回ほど対策本部を設置しています。電車が止まると出勤できない職員の把握、透析を中止するタイミング、帰宅できない患者・職員の受け入れ体制…、などについて準備します。

■コロナ対策と経営維持の両立

 新型コロナウイルス感染症がニュースになり始めたのが1月下旬。2月上旬には、感染症対策に必要な物資が医療機関に十分に届かなくなる恐れがあり、学校や保育園の休校・休園も想定されました。2月10日、耳原病院COVID―19対策本部を立ち上げ、医療資源の在庫状況、職員が出勤できない場合の診療体制はどうするか、透析が継続可能か、不可能な場合の患者の受け入れ先、妊婦が感染した場合の対応なども検討を始めました。
 BCPを活用して対策本部を立ち上げるメリットは、危機管理モードを職員に周知できることです。幹部会議を待たずに意思決定もできます。組織図も役立ちました。診療調整部門は新型コロナの最新の知見などの情報を集約し、どんな診療をどこで行うのか、そのための準備などをしました。総合調整部門は、保健所とのやり取りや入院・転院の調整、医療資源の調達、不足した場合に備えてガウンの手づくり方法を調べて、共同組織に作成を依頼するなどしました。そのため感染対策チームは感染制御に集中できました。
 救急総合診療科が新型コロナの診療を担うため、後期研修医を中心に救急を取り仕切るようにし、多くの診療科の医師が当直帯にPCR検査をできるように研修。みんなの力を結集して通常診療を維持するようにしました。経営を守り抜くことはBCPの重要課題のひとつです。今後は感染症対応BCPも必要だと考えています。


泥出し、片付け支援開始 コロナ禍での難しさに直面

熊本民医連 川上和美さん

 7月3日から降り続いた雨は、九州を中心に甚大な被害をもたらしました。特に被害の大きかった熊本の状況について、同県連の川上和美さん(看護師)が理事会で行った報告の概要を紹介します。

 被害地域は人吉市、球磨村、芦北町、八代市など県南部で、死者65人、行方不明者2人、被害家屋は約9000ですが、被害の全容は把握できていません(7月27日現在)。約2200人が避難しており、町や村が丸ごと被害にあった地域もあります。
 球磨村、人吉市で高齢者施設7カ所、医療施設13カ所、水俣市、芦北町で高齢者施設7カ所、医療施設12カ所で被害が出ました。水俣協立病院では、被害にあった病院から4人の患者を受け入れました。
 民医連の事業所には大きな被害はありませんでしたが、県連対策本部を4日に立ち上げ、八代地域で友の会会員への電話がけや避難所訪問を実施。薬を持たず避難した人もいました。
 水俣現地対策本部も立ち上げ、「職員のいのち・健康を守る、患者・利用者、友の会のいのちと健康を守る、地域を守る」を確認。10日には、ここを拠点に他団体とボランティアセンターを発足、泥出しや片付けなどをしています。
 八代市で被害にあった特養に看護師を派遣しています。約40人の入所者を市内5カ所の施設に分散、職員が巡回してケアしていましたが、負担が重く、疲労困憊(こんぱい)の状況になっており、支援要請を受けました。

■リスク高い避難生活

 他県からの支援を受けられないコロナ禍での災害は、本当に大変です。県外から支援に来た保健師に感染が確認され、約320人にPCR検査が実施されました(全員陰性との報告)。
 支援している特養も、仮の施設で「3密」を避けられません。避難所はパーテーションで区切られていますが、多くの人が交差する避難所での感染対策は容易ではありません。支援する方も受ける方も「もし感染者が出たら…」と不安と緊張感を強いられます。被災地域の高齢化率は35~40%と高く、疲労や体力消耗などリスクは高いのが現実です。
 コロナ禍での災害への対応や支援のあり方、PCR検査の拡充なども含めて考えていく必要があると思います。

(民医連新聞 第1719号 2020年8月3日)