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民医連新聞

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コロナでなにが (1)歯科 失業、無保険…コロナで困窮状態が加速小児では虫歯が増加

 新型コロナウイルス感染症の拡大と、それによる外出自粛が、人びとのくらしと健康に大きな影響をおよぼしています。さまざまな現場からの報告を通して、新型コロナウイルスがもたらした影響とその背景、解決の道筋を考えます。1回目は歯科から。無料低額診療事業の申請が増えています。

 相互歯科(東京・健生会)がある立川市は都内30市町村(23区、島を除く)の中で生活保護利用率がもっとも高い自治体です。以前から、気になる患者さんの訪問や職員による「相談チーム」をつくるなど、困難を抱える人たちの相談活動に積極的にとりくんできました。そんな同院でも、「かつてない事態」が進行しています。

■無低診の申請が急増

 昨年度の同院での無料低額診療の申請は1年間で21件で、うち無保険の人は8人。今年度は4~6月の3カ月間ですでに8件の申請がありました。「深刻なのは、8件の相談のうち6人が無保険だったこと」と話すのは歯科医師の岩下明夫さん。「コロナ以前から無保険でギリギリの生活だった人がコロナで仕事を失い、一気に困窮しているのでは」と危惧します。
 50代の女性は、デパートの食品売り場で試食販売をする派遣社員でした。4月7日の緊急事態宣言後、デパートの休業に伴い仕事がなくなり、月7万円ほどの収入はゼロに。20代の頃から無保険で「風邪を引いたら市販薬を飲んで寝ていた。歯の痛みは耐えられない」と受診しました。
 20~30代の人は6人で、いずれもアルバイトや無職。ネットで無低診を行う同院を知り、受診していました。「親の扶養を外れた後は、一度も保険証を手にしたことがない人も多いのではないか。無保険の人がこんなにいるのかと衝撃を受けた」と岩下さん。

■休校中に虫歯が悪化

 4、5月は予約の大半を中止し、受け入れは急患のみ。小児の診療でも異変が起きていました。
 歯科衛生士の小渕みほさんは、「虫歯ができた、痛みがひどい、と急患でくる小児の患者さんが複数いた。今まで定期的に通院し虫歯がなかった子が、虫歯ができて受診した例もあった」と言います。休校になっても親が仕事を休めず、子どもだけで過ごす日中におやつを食べ過ぎたり、食事が不規則になっていると見られます。乳歯の抜歯や神経の治療が必要なケースもありました。
 岩下さんも、「診察室で怒鳴る患者さんも何人かいた。イライラが募り、怒りの持って行き場がないのでは」と言います。それを裏付けるような傾向も出ています。岩下さんが治療した患者で、痛みや腫れ、詰め物の脱離を訴える人が例年より多くなっているのです。「これらの症状は治療直後に多い。4、5月はわずかしか治療していないのに症状を訴える人は増えている。ストレスが高まると歯のくいしばりが増える。それで、こうした症状が増えているのではないか」と岩下さん。
 新型コロナに関連した「気になる事例」が増えていると指摘するのは、歯科衛生士の相曽訓子さん。障害を持つ娘とともに2カ月ぶりに受診した80代の女性から相談を受けました。3月末に夫(90代)が発熱し、新型コロナ疑いで長期入院と再入院をくり返し、5月末にやっと退院。入院前、家の中では自立していた夫のADLが低下し、ほぼ寝たきり状態に。「なぜ、こんなことに」と途方に暮れていた、ということです。ほかにも、入院中の面会禁止や通所介護の利用自粛、手術の延期など影響が出ています()。
 「治療を中止していた患者さんが戻ってくるのか、必要な治療を続けられるのか、きちんと見ていきたい」と相曽さんは言います。

■公的な支援は不可欠

 相互歯科では同法人の立川相互病院の感染症予防認定看護師と連携し、院内の感染症対策をすすめました。「法人の対策チームに歯科からも参加し、医科歯科連携ができた」と事務長の木口祐子さん。
 感染防止の資材の購入、ビニールシート設置、空気を循環させるための扇風機設置など、費用はかさんでいます。換気のために窓を開けると虫が入り、今月中に網戸の設置工事を行い、費用は数十万円。「4月の収入は前年比で約6割減。のべ患者数も55%減です。「賃貸で開業していた歯科の閉院も出ている。公的な支援が不可欠だ」と岩下さんは強調します。(丸山聡子記者)


歯科スタッフが聞いた患者さんたちの様子

・Aさん90代。グループホームが面会禁止となり、家族と会えずに不穏当に。「家に帰りたい」とくり返す。
・Bさん70代。腎臓機能低下で近くの救急病院に入院。緊急の手術が必要だったがコロナの影響で先送りに。手術ができないまま3日後逝去。
・Cさん70代。障害のある娘とともに近くのショッピングセンターへの買い物が日課であった。コロナでショッピングセンターが閉鎖になり、楽しみが減ってしまった。
・Dさん80代。家族が感染を恐れて、デイケアに行けなくなってしまった。結果、息子に介護が集中し介護疲れがひどい。
・Eさん90代。入院していたが一切面会できず。久しぶりに退院し自宅に戻ると、家族が驚くほどやせてしまっていた。

(民医連新聞 第1718号 2020年7月20日)