新型コロナ 国の財政支援こそ急務 地域の医療・介護を守る声を全国で
全日本民医連経営部は、新型コロナウイルス感染拡大による経営的影響調査のため医科法人緊急経営調査(5月度)を行いました。中間集計(150法人中97法人が回答)で、74法人が経営への影響が深刻と回答しました。木原望事務局次長に聞きました。
■多額の借金の返済
新型コロナウイルス感染拡大を受け、病棟での感染者発生による病棟閉鎖、感染者や疑似患者を受け入れるための空床確保、外来患者の受診抑制、健診の休止などで経営はかつてないほど深刻な状態です。もともと基礎的体力が弱い日本の医療・介護経営の実態に、コロナ禍に伴う収益の大幅な減少が押し寄せ、全国の数多くの医療機関が経営破綻の危機に立たされています。
緊急経営調査では、外来患者、入院患者、施設利用者が減少し、全体の事業収益は前年比平均87・7%となり、経常利益マイナス25億円(マイナス7・6%)、償却前利益マイナス12億円と資金が流出しています(グラフ)。有効な財政支援がない中、手持ちの資金の流出で資金ショートするか、返済の見通しのない借金で将来の展望を失うか、という2つの選択を迫られる厳しい状況に直面しています。多くの法人は現在、緊急融資を選択し、71法人(73・1%)が合計で223億円の緊急の融資を受けています(申請予定含む)。
全国の医療機関が経営危機の中、政府は、5月の診療報酬分を昨年の概算で支払うとしたものの、7月分で5月の概算払いと実額との差額を差し引いて支払うとの方針を示しました。これではなんの経営支援にもなりません。また福祉医療機構の融資枠を広げるとともに、返済について5年間の猶予を設ける優遇措置も打ち出しました。しかし、この融資は本来借りる予定ではなかった借金であり、5年後に多額の借金返済が待ち受けるだけです。
もともと、新型コロナウイルス感染症の拡大前から、獲得した事業キャッシュで、金融機関への長期借入金1年以内返済額をまかなえない法人が2割にのぼっている状態でした。
■責任に帰せない損失
今、緊急に求められるのは、医療・介護経営に対する国家的財政支援です。新型コロナウイルス感染症患者・利用者への対応など、特別の負荷に対する適切な財政支援、個々の医療機関や介護事業所の「責任に帰せない損失」(患者・利用者の減少・収益減少)への財政保障という2つの側面からの支援が必要です。そのことが経営をささえ、医療・介護従事者の奮闘にこたえることになり、次なる波に備える準備につながります。
また医療・介護は、人のいのちにかかわるライフラインであり公共財です。第二波、第三波など長期戦が予想される中、経営破綻による地域医療の崩壊はなんとしても防ぐ必要があります。新型コロナウイルス感染症に立ち向かい、国民のいのちと健康を守るためにも、事業活動、経営を維持することが社会的使命です。
■医療界の要求は一致
政府は2011年の東日本大震災の時、前年実績による医療費概算払いを行いました。今回も、第2次補正予算で成立した予備費10兆円のうち、使途が明らかになっていない5兆円から損失を補てんする資金を捻出させる運動や新たな補正予算を組ませる運動を、各地であらゆる医療・介護団体とすすめる必要があります。ピンチはチャンスに変えられます。
経営の悪化で閉院する医療機関があい次げば、地域医療体制に空白が生じかねません。医療崩壊のリスクを回避するため、福岡県議会は、「新型コロナウイルス感染拡大の影響による受診控えによって減収となった医療機関への支援に必要な財政措置を講じること」を国に求める意見書を全会一致で採択しました。
各地で経営の深刻さを告発する記者会見も行われています。医療界の要求は一致しており、今までつながりをつくることのできなかった医療・介護団体とともに声をあげることができる時です。「地域の医療と介護を守れ」の思いで一致してたたかうことができます。
日本の医療と介護を守り抜くために、全職員の力を結集し、あらゆる可能性を追求して、全国で声をあげましょう。(長野典右記者)
道内107事業所4~5月で5・5億円減収
北海道民医連が会見
北海道民医連は6月17日、北海道庁で、コロナ禍で苦境に立つ病院経営の実態と要望について記者発表をし、約10社が取材しました。道民医連の4月、5月の道内107事業所の決算結果での深刻な減収(5億5000万円)と経営悪化の実態を、道民医連事務局長の小内浩さんが説明しました。
医療機関は国民のいのちと健康を守るうえで必要不可欠であり、その確保は公的責任です。小内さんは「地域医療構想の名で病床数を削減し、医療従事者を抑制してきた。医療費や社会保障費削減の政策を転換する必要がある。公的病院を廃止・縮小せず、すべての医療機関への公的支援が第二波、第三波で道民のいのちと健康を守ることになる」と訴えました。(「北海道民医連ニュース」より)
(民医連新聞 第1717号 2020年7月6日)