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民医連新聞

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診察室から 社会を見つめる病理医

 前回のコラム(4月6日付)で病理医の仕事を少し紹介しました。患者を診ず、臓器や組織を相手にする仕事です。言い換えれば、臓器や組織を通して生きている人間を考える、という仕事です。
 今回はちょっと具体的な話をします。がんや子宮筋腫などで子宮の全摘出が行われ、病理検査室に運ばれます。まず、病理検査専用の包丁で子宮を切り、次に病理医のパートナーの臨床検査技師がガラス製のプレパラートをつくります。これを顕微鏡で観察すると、子宮の壁にいくつもの動脈の断面がみえます。その動脈硬化の程度をみるだけで、「この人は何回妊娠・出産をしたか」が推測できます。動脈の壁が厚くなっていたり、石灰化してくることが動脈硬化ですが、妊娠・出産の多い人ほど、動脈硬化が高度なのです。動脈硬化が強ければ、血液の通り道が狭くなり、その臓器は酸素不足に陥りやすいのです。子宮の立場からすれば、1回の妊娠より2回、3回と増えることによって、かなりの負担がかかっていることが予測できます。
 肺を観察するときには、顕微鏡を使わなくても肉眼観察だけで、喫煙者か非喫煙者か、だいたい区別できます。肺のいたるところに黒いシミのようなものがこびりついている状態で、これを炭粉沈着といいます。喫煙者はさらに肺気腫といって、酸素と二酸化炭素を交換する空気の最終的な入れ物(肺胞)が、間にある壁が破壊されて合体して、大きな空気の入れ物になっていることが多いのです。肺の構造は、空気を入れたブドウの房をイメージすると理解しやすいでしょう。ひとつひとつのブドウの粒がこの肺胞で、左右の肺で合計3億個、表面積はテニスコートほどあります。この粒同士が融合して大きな入れ物になると、ガス交換する表面積が減り、酸素をうまくからだに取り込めなくなります。
 民医連の実践する医療の特徴に、患者の社会的背景をしっかり考える、というのがあります。ただ単に病気だけを診るのではなく、病気になった要因を複合的に考えるという立場です。例えばこの肺の炭粉沈着ですが、低所得者層に喫煙率が高いという報告もあります。最初に臓器や組織を通して生きている人間を考えると申しましたが、その先の社会を見つめていることになる、といっても過言ではありません。(宮沢善夫、奈良・土庫病院病理診断科)

(民医連新聞 第1717号 2020年7月6日)