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民医連新聞

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診察室から 10年後のみなさんは?

 新入職員のみなさん、民医連へようこそ。私は奈良県の小規模病院で働くキャリア30年の病理医です。医師免許はありますが、生きている患者を診察することはなく、検査や手術で採られた組織や臓器、また病気で亡くなった患者を解剖したりと、病院の裏方的な仕事です。もっとも重要なミッションは、採られた組織が悪性(がん)か良性か、最終的な判断をすること。いわば「最後の診断」です。私のくだす病理診断で、胃や乳房を切除するかしないかが決まります。そういう医療の裁判官的な役割から、doctor of doctorとも呼ばれますが、私自身はpaper doctorと自称しています。「診察室から」というタイトルとは逆に、診察室を使いません。白衣を着ることもほとんどありません。
 多くの医学部卒業生がそうであるように、私も普通の医者(患者を診察する臨床医)になろうと思っていました。ところが、親しい先輩が病理の道にすすんだこともあり、「数年は病理学をやって、それから臨床医になればよい」と簡単に考えて病理の道に入りました。しかし実際は、病理学の世界はとても面白く離れがたいものでした。病理を続けてよいのか臨床に進路変更しようか、ずいぶんと迷いました。いつのまにかアリ地獄的な病理の世界にどっぷりはまり、いまさら元に戻れない年齢になっていたのです。逆に、当直もなく、解剖で呼び出しされることもほとんどない、と考えれば、ストレスがなく自分の時間を自由に使えるこの仕事が、天職ではないかと思い始めました。当初は予想すらしない現在の自分の立ち位置に驚くとともに、同僚の臨床医をはじめとする職場の仲間にささえられ、この仕事をやってきてよかった、と思う今日この頃です。
 新入職員のみなさんは10年後何をやっているか、イメージしてみてください。最初と同じ、あるいはまったく違うけれど、医療に携わっていると思います。もしかして10年後「こんなはずじゃなかったけど今が一番」と思える人生かもしれません。(宮沢善夫、奈良・土庫病院病理センター)

(民医連新聞 第1713号 2020年4月6日)