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民医連新聞

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1日目 藤末衛会長あいさつ 健康阻害の原因に迫る運動変革の視点養う職員の育成

 メッセージをお寄せいただきましたみなさんに心からお礼を申し上げます。水俣病の公式確認から65年、患者の救済から真実の解明、環境保全の運動につながるたたかいをささえた熊本民医連のみなさん、自ら被災しながら震災の救援・支援にとりくんできたみなさんが、総会現地の任を引き受け設営に協力をいただきました。
 この2年間に61人の現役民医連職員が亡くなりました。徳島民医連の門田耕作会長が逝去したのは本年2月2日でした。全日本民医連の元役員では大阪の大野譲一元副会長が亡くなりました。ここで亡くなられたすべての民医連の仲間に心から哀悼の意を表します。

■市民社会が世界を動かす

 まず総会開催にあたっての時代認識を述べたいと思います。
 世界の大局を見極めることは、いまをどう生きるのか、行動するのかを決める材料です。21世紀に入り、植民地体制から独立をした100を超える新しい主権国家群、そして市民社会が世界を進歩の方向に動かしつつある。これがまず踏まえるべき時代認識だと思います。科学的な事実の積み上げと、国連憲章あるいは条約などの国際的規範の確立、そしてそれにもとづく行動提起と実践の方略が重要な役割を果たしてきました。人権・社会保障をめぐっても大きな前進が見られます。
 一方で、経済のグローバル化や新自由主義的な政策の実行の中で、先進国と言われる国々でも経済、健康格差は拡大している現状があり、日常に鬱積(うっせき)する不満あるいは不安が、危険な潮流や政権を生む事態も見られます。進歩と反動が交錯をし、あるいはぶつかり合う、こういう時代に、何を大切にして、どう生きるのか、どう行動するのか。医療・介護といった公共的な事業と運動をする団体・組織としての民医連は、今日の世界が到達をしている健康権をはじめとした人権にかかわる国際的規範を見据えて、よりいっそう倫理的な態度、そして協働的な行動が求められると考えます。

■平和、個人の尊厳、共同

 次に運動方針案第1章の綱領改定10年の歩みと教訓について述べたいと思います。日本国憲法と民医連の総路線の関係論、そして「共同のいとなみ」の医療・介護観、協力協同の運動論、この3つを明確にし、次世代に民医連のバトンをつなぐことが10年前の綱領改定の核心でした。国際的規範としての健康権の認識と打ち出し、あらためてSDHの重視と、今日的な具体化として「民医連の医療・介護活動の2つの柱」の提起、現場からとりくむ社保の運動や9条改憲反対の運動、そして阪神淡路大震災の経験や被ばく者医療の経験を生かした東日本大震災、東京電力福島第一原発事故の災害救援活動などに具体化されてきました。住み続けられるまちづくりをミッションとした共同組織を、民医連運動のすべての分野・課題でのパートナーとして位置づけ、綱領に明記しました。
 イチロー・カワチ先生たちが著者のアメリカの公衆衛生社会疫学の教科書にソーシャルキャピタルの章があります。その巻頭に出ているのが、阪神淡路大震災時の神戸市長田区真野地区の住民ネットワークによる救援復旧支援活動です。ソーシャルキャピタルの代表例として紹介されています。この地区は神戸医療生協の活動が強い地域です。倒壊した家屋からの生存救出例の多くは地域住民による救出でした。この10年間、私たちの歩みは総じて綱領改定の核心部分が生かされた実践だったとまとめてみました。
 世界の大局と綱領改定10年の実践を踏まえ、2020年代の民医連運動のキーワードを「平和と個人の尊厳」としました。運動課題では私たちが歴史的にも重視してきた環境保全の問題のとりくみについて、気候危機という認識のもとにとりくみを提起しました。また多様性の尊重を、個人の尊厳を求める運動の前提と位置づけ、世界が到達した国際的規範を踏まえた人権保障の運動を学び、実践することも提起しました。
 医療・介護活動では、ヘルスギャップ、健康格差の克服を主題として、健康阻害のすべての要因、1つは生物的要因、2つ目は社会的要因・SDH、3つ目に環境を含む外的要因、この3つ全部に目を配り、原因に迫る活動をめざす。特にソーシャワーク機能の強化を呼びかけました。また、これまで運動課題として位置づけてきた社保の活動を、日々の医療とケアの活動と同時にセットですすめていくことも強調していきます。
 政府が強調している地域共生社会づくり、地域包括ケア、これと私たちがめざす福祉のまちづくりや無差別・平等の地域包括ケアの違いを明確にするためにも、健康格差克服を人権保障の視点ですすめるための要点について記述しました。1つは主権者である住民の参加、自己決定が確保されること。2つは保健医療にかかわる担い手が「共同のいとなみ」の視点を持って多職種協働をすすめていくこと。3つは、行政は法的・財政的責任を明確にしてこれをささえる。この3つがそろって初めて人権の視点による地域包括ケアや地域共生社会がつくられていく。NPОや地域住民丸投げのスタイルであってはならないと明確にしました。

■生活と人生に寄り添う医療介護

 今日の民医連で打開が急がれる課題として、医師をはじめとするスタッフ不足と経営問題をあげ、それを突破するために、生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり、高い倫理観と変革の視点を養う職員養成を提起しました。政府が安上がりの医療・介護政策をすすめるために患者・利用者負担増、診療報酬の調整という手法に加え、医療供給体制を変更する手法を本格的にとりはじめ、患者の流れが変化しています。医師養成制度も提供体制変更に合わせた改革がすすめられており、民医連の経営や医師養成にも大きな影響が出ています。より本質的に構えて打開する必要があると考えました。
 以上、重点課題について補足的な説明、提案となりましたが、2020年代の課題は健康阻害の原因に迫る民医連運動の課題ととらえて、理事会からのあいさつといたします。

(民医連新聞 第1712号 2020年3月16日)