あずみの里裁判控訴審は即日審理打ち切り 東京高裁は公判を再開し、公正な裁判を!
長野県にある特別養護老人ホームで起きた入居者の急変、その後の死亡をめぐり争われている、特養あずみの里「業務上過失致死事件」の控訴審第1回公判が1月30日、東京高等裁判所(大熊一之裁判長)で開かれました。裁判所は弁護側の証拠調べ請求を1点を除き採用せず、即日結審しました。医療の専門家の科学的な意見書を無視する裁判に、抗議の声が広がっています。
2013年12月、特養あずみの里で入居女性(当時85歳)がおやつのドーナツを食べた直後に意識を失い、翌月死亡。当時ドーナツを配り、女性の隣で別の入居者を介助していた看護職員が、業務上過失致死罪で起訴され、昨年3月25日、長野地方裁判所は罰金20万円の有罪判決を出しました。
控訴審の争点は2つ。(1)亡くなった入居女性の「死因」が窒息かどうか。仮に窒息の場合、(2)看護職員がゼリーではなくドーナツを配ったことが、刑罰に値する「過失」といえるかどうか、です。
控訴審初公判に先立つ支援行動には、東京高裁前の歩道にあふれんばかりの支援者が。岩手から駆けつけた吉田真吾さん(介護福祉士)は「何とか良い結果を」と祈るように話していました。25の傍聴席を求め列をつくったのは、約370人。傍聴できない支援者や全国の医療・介護・福祉の現場をまもる職員が注目する中、午後2時、公判が始まりました。
■無罪証拠を無視?!
公判直後の報告集会では、約450人の支援者を前に木嶋日出夫弁護団長が報告。東京高裁は、弁護団が新たに提出した「死因は脳梗塞」とする脳神経外科専門医3人の意見書を含む16点の書面と、7人の証人の証拠調べ請求を、1点を除き採用せず、審理を打ち切りました。
弁護団は、不公正な裁判官らに本件を裁く資格はない、と交代を求める忌避(きひ)を申し立てました(後日、棄却されました)。公判傍聴者からは「亡くなった女性の死をも冒とくするもの」との発言もありました。上野格弁護士は「疑わしいのに証拠調べをしないのは刑事裁判の死だ」と批判しました。
最後に、被告人とされている看護職員が「どうして裁判官は真実に目を向けず、耳をふさぐのでしょう。絶対に無罪を勝ち取るまでたたかいます」と語り、支援者らは決意を固め合いました。
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あずみの里裁判で無罪を勝ち取る会と同裁判支援中央団体連絡会は、事件の真相を明らかにするため、公判を再開して証拠および証人を採用し、公正な裁判を行うよう裁判所に求めることを確認。「控訴審で公正な裁判と無罪を求める」署名の継続、緊急抗議FAXなど、4つの緊急抗議行動を提起しました(通達第ア―695号参照)。
すでに多くの緊急抗議FAXが、個人のほか、事業所、法人などの団体からも寄せられ、2月5日に82枚、12日に2340枚を東京高裁に提出しました。公判再開まで、署名とともにとりくみましょう。(丸山いぶき記者)
利用者にも明るい介護を
看護学者 川嶋みどりさん
公判を傍聴し、「はらわたが煮えくり返る」とはこのことかと思うほど、裁判所の態度はむごいものでした。ウソとごまかしの政治が行われる今、三権分立でせめて司法はしっかりしてほしいのに。
介護現場がどんなに厳しく、緊張がみなぎり、危険に満ちているか。その中で職員が、何とか事故を起こすまい、良い介護を、と奮闘しているか。本件は立件自体が不当です。
どれだけ気をつけても「急変」は起きます。本件はそれがたまたま、ドーナツを食べている時でした。それなのに、どうも検察には「窒息」「ゼリーの方が安全」という先入観があると感じます。
私は88歳。高齢者として、自分や同年代の仲間が受ける介護の未来が暗いと困ります。無罪を求め、発信を続けます。
裁判官は医学の専門家ではない
◆傍聴した牛渡君江副会長の話
予測不可能な「急変」が刑事訴追されるならば、介護の目的を見失います。リスクを回避するため、「おやつ提供廃止」などの事態が起きています。不利益をこうむるのは、患者・利用者であり、国民です。
公判では、弁護団が実際のCT画像を示し、脳梗塞が起きていること、窒息の場合、別の浮腫が現れるがそれがない、と説明。裁判長は遮り、証拠として却下しました。医学の専門家ではない裁判官は、医師の意見を尊重すべきです。
患者さんにはそれぞれの人生の物語があります。その最期を明らかにしようとしない裁判所は、血が通っているとは思えません。弁護士の言葉が今も耳に残っています。「歴史の法廷で裁かれるのは裁判所だ」。
怒涛の世論で抗議することが求められています。
(民医連新聞 第1710号 2020年2月17日)