変わる地域で病院理念の実践めざす 福島・わたり病院 医局宣言2019 専門外の領域でも初期対応をしよう
無医村だった地域で病院が誕生し、40年余り。近隣には医療機関が増え、地域住民からのニーズも変化する中、開院当時からの理念が日常の診療の中で実現できているか? 現実が理念とかけ離れてないか? そんな問題意識から、福島・医療生協わたり病院では医局をあげて議論し、昨年10月、「わたり病院医局宣言2019」「わたり病院医師・職員行動指針2019」をまとめました。とりまとめの中心を担った渡邊亜貴子副院長に話を聞きました。(丸山聡子記者)
同院の基本理念は、「私たちは、患者の権利を尊重し、いつでも誰もが安心してかかれる病院を目指します」です。開院当初は一晩に数件の救急車を受け入れていましたが、地域に夜間診療所ができ、二次救急輪番制度が機能するようになり、同院への夜間救急の需要が減ってきていました。2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で職員数の減少に拍車がかかり、「診療の縮小」をせざるを得ない事態が続きました。
■病院のあり方、あらためて議論
昨年春ごろ、患者と最初に接する医事課職員から、夜間や休日に患者を受け入れるか断るか、の判断基準を示してほしいと意見が出ました。渡邊さんは、「医師体制も厳しく、夜間・休日に断ることが続いていました。それを患者さんに伝える外来医事課の職員は、『病院の理念と照らし合わせて、これでいいのか』と悩んでいることが伝わってきました」とふり返ります。管理会議で議論の末、検討を始めることにしました。
医局会議は2週間に1度。4~5回にわたり、医局理念について議論を重ねました。医事課の意見をもとに、受け入れの判断基準の策定を想定しました。しかし議論を重ねる中で、「具体的なノウハウや数値目標のようなものではなく、考え方の方向性を示すべきだ」という意見も出てきました。
その結果、医局理念は「私たちは、患者の権利を尊重し、無差別・平等、安全・安心な医療を実践する病院を目指します」としました。SDH(健康の社会的決定要因)の視点を持ち、医師・職員ともに患者の社会的背景に配慮できる力を養うと書き込みました。
■赤字の解消に向けて
並行して議論になったのが、数年続いている赤字の解消です。
東日本大震災・原発事故後、診療の縮小と患者の減少に歯止めがかかっていませんでした。「議論の結果、新患を増やそうという結論になりました」と渡邊さん。
そこで、「専門外の領域でも初期対応をしよう」と呼びかけ、「総合診療とは、地域住民から診療の要求がある疾病(common disease)の初期対応をすることです」「夜間・休日であれば、切創(簡単な縫合も含む)・打撲・腰痛・2度までの熱傷・皮疹・歯痛・血尿・尿閉・小児の発熱や喘息発作・神経症等の初期対応、も含みます」と明記しました。
渡邊さんは、「この範囲なら無理ではないと考えました。私が入職した13年前には診ていた内容だからです」と言います。同時に、若手医師や研修医からの「そのための教育や研修の保障を」という声に耳を傾け、「各医師が知識を更新していけるよう、定期的に研修会や学習会を開催していきます」と加えました。「若手の同僚から教えられました」と渡邊さん。
■業務の見直しも課題
2つの文書は、各職場長を通じて職員に周知・議論し、全職員でとりくみをすすめています。職員の受け止めは好意的で、中でも医事課職員からは「理念に沿って患者さんに対応できる」と好評です。昨年10月以降、稼働率がアップし、毎月の予算は3カ月連続で達成することができました。
「課題もあります」と渡邊さん。特に病棟の看護師は、職員は減っているのに業務は減らない状態が続いています。「さらに患者も増えてきているので、業務改善を早急に行う必要があります」。
文書では、「地域医療連携ネットワークの会合および地域包括ケアシステムの会合・関連行事に参加していきましょう」と書きました。渡邊さんも参加するようになり、「地域のケアマネ、ヘルパー、地域包括支援センターの職員などの話を聞き、地域を知ることの重要性を再確認しています。そうした人たちとつながってより良い医療やケアができるのではないか、という手応えを感じています」と話していました。
わたり病院医師・職員行動指針 2019
1.福島医療生協のこれまでの実績
2.わたり病院の現在の課題
3.医局理念の提案
4.General physician を目指す
5.外来患者・入院患者を増やすために
6.患者の入院処置をできるだけ日中に完結させる
7.「地域包括ケアシステム」・「地域医療構想」実現の重要性
8.「地域医療構想」の中で わたり病院に期待される役割
9.後進の育成
10.地域住民・組合員のために
(民医連新聞 第1710号 2020年2月17日)