診察室から 診療所はがんとのたたかい最前線
当診療所は昨年50周年を迎えました。昨年度ののべ患者数は8500人弱、かかりつけの患者数は800人弱。治療内容は高血圧症62%、高脂血症29%、糖尿病26%、骨粗しょう症22%です。一方、死因のトップで国民の2人に1人がかかる悪性腫瘍のデータがどこにもありません。診療所でのがん治療はごく少数なので、痕跡を探さないと把握できません。
2年以上前になりますが、高血圧でかかっていた患者が黒色便を訴え、大腸カメラ、大腸がんの診断、県立病院への紹介と最速で対応しました。しかし、県立病院からは肝臓転移の連絡が。カルテを見返しても便潜血の検査がしてありません。痛恨の極みでした。
しかし、便潜血陰性でも、たまたま受けた腹部エコーで腹部リンパ節の腫大が見つかり、大腸がんの診断となり、生還する患者もいます。胸部大動脈の蛇行が気になりCTを撮ったところ、両肺尖に肺がんが見つかった人もいます。直近の胸部X線では影も形もありません。簡単な手術を2回行い、生還しています。「偶然の発見」が生還の要因のようです。
高血圧症にしろ糖尿病にしろ、患者に寄り添っているのは診療所。発見のツールもあります。がんとのたたかいの最前線はやはり診療所しかありません。5年生存率の低い肺、胆肝膵のがんに対しては、やたらCTを撮りたがる医師を貫くしかないと腹をくくっています。もっとも生存率の低い膵がんは、特別の監視態勢を準備しないといけません。膵嚢胞(IPMNを含む)の患者は県立病院や大学病院にお願いして、半年に1度の検査を行っています。最近は半年後の予約も紹介先で入れてもらい、「膵嚢胞外来」のようになっています。紹介した人数は17人と少ないものの、手遅れをゼロにできるかの期待が持たれます。
現在、何らかの悪性腫瘍の既往のある患者(末期含む)は13・3%。いろいろな見方があると思いますが、生存者が多くなれば飛躍的に上がるのは間違いありません。目の離せない数値です。(粕谷志郎、岐阜・華陽診療所)
(民医連新聞 第1710号 2020年2月17日)
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