『学習ブックレット民医連の綱領と歴史』学習企画 中国で加害の歴史と平和、医の倫理考える
全日本民医連は、『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史』の学習企画を行い、平和と医療を学ぶため、昨年9月13~18日に中国を訪問しました。全日本民医連理事の下石晃史さんの報告です。
今回の訪問では、全日本民医連から増田剛副会長ら19人が参加しました。中国東北部(旧満州)を訪れ、安倍9条改憲、戦争する国づくりがすすめられる今、日本の侵略の歴史を振り返ること、その爪痕と戦争の加害の歴史を体験することを目的に開催しました。
初日は遼東半島の大連市の市轄区、旅順を訪れました。日露戦争の激戦地であり戦争の跡が刻まれ、日本軍の旅順口攻撃などが起こった地。市街の標高203mの小高い丘が激戦地となり、両軍合わせて膨大な戦死者が出ました。次に訪れたのは旅順刑務所です。1907年に大日本帝国関東都督府が運営していました。現在は、「旅順日露監獄旧址」として陳列館となっています。その後は大連へ、旧満鉄本社および植民地支配について学習しました。
その後、ハルビンへ向かって大陸を大移動。時速300kmを超えるスピードの新幹線に乗って約950km先のハルビンに向かい、さらにロシア国境に近いチチハルに移動しました。
■毒ガスの健康被害
チチハルではチチハル遺棄毒ガス事件の現場へ向かいました。これは、2003年8月4日、団地の地下駐車場建設現場から、5つのドラム缶が掘り起こされ、死者や健康被害者を出した事件。中身は旧日本軍が第2次世界大戦中に秘密裏に製造・遺棄したマスタードガスでした。ドラム缶の撤去作業や汚染された土の上で作業した17人が被害にあいました。さらに、毒ガスとは知らず工事作業員が、くず鉄の再利用を目的に、ドラム缶を近くの廃品回収所に持ち込み、液体をすくいだす作業をした1人が死亡、8人が被害にあいました。毒ガスがついた汚染土は、近くの駐車場整地のために使われ、土遊びをした子どもたちなども毒ガスの被害にあいました。この事件で被害者は44人、うち1人が亡くなりました。
被害者らは「日に日に体が弱っている」「咳が出る、心臓も悪くなってきた」「動悸や胸部圧迫感・めまい、頭痛、イライラ…」「眼球には刺される痛みがあり、目が覚めると全身の関節が痛み、手指が冷たい」と健康被害を語りました。最大の問題は治療費の負担が大きいこと。「この事件は、戦争問題でも医療問題でもない。今起こった現実の健康問題。『戦争賠償は済んでいる』とされ、何も変わらない。健康問題であることを日本で伝えてほしい。治療費の援助もあるがとても足りない。日本政府から納得いく回答がほしい」などと語りました。そして、何より周囲の住民から、見えない障害への無理解や、地域コミュニティーの破壊から、住民間の信頼関係の破綻などを含め、二次的な被害を受けていることを語りました。
■事実を復元する場所
ハルビンでは平房区にある731部隊罪証陳列館を見学しました。金成民館長は「30年以上、ロシアや米国の資料をいろいろと調査したが、日本だけは資料を公開してくれない」「この陳列館は事実を復元することをめざしている。憎しみを復元する場所でない」と語りました。陳列館には、人体実験の処置台、マルタ(人体実験された捕虜)のはりつけを再現した展示、マルタの実験模式図、ペストに感染させたノミを用いた実験の様子など、まさに地獄絵図を見ているような錯覚を覚えました。右の展示の写真は、毒ガス実験をガラスの向こうで観察していた情景です。医の倫理もない、人を狂気にする戦争に心の底から怒りを持ちました。
■歴史を深く知るべき
現在の改憲論議の中で、中国や北朝鮮を脅威としてとらえ、9条改憲の動きが進行しています。しかし、戦前と戦後の日本の歴史の見方、歴史認識がとても重要で、あらゆる機会にその歴史を深く知るべきであると感じました。
真実を学び、しっかりと事実を伝え、平和を訴えていきたいと思います。
(民医連新聞 第1708号 2020年1月20日)