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民医連新聞

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診察室から 在宅医療はこれで良いの?

 昨年3月末で、16年間勤めた瀬戸内海の離島診療所を辞し、4月から現在のクリニックでの勤務が始まりました。
 5月になって93歳の男性患者が総合病院から紹介されてきました。4年前に前立腺がん、多発骨転移と診断され、認知症もあることから積極的な治療は行わず、家族、ケアマネジャー、地域の訪問看護ステーションと協議した結果、7月下旬からは週1回の訪問診療と毎日の訪問看護を行うことになりました。
 家族の意向としては、自宅で看取るという意思が強く、長男の妻(元看護師)が患者の世話をしており、在宅医療にも詳しく、終末期の心構えもできていました。当院としてはできるだけの援助体制を取り、夜間の急変時の対処方法なども納得してくれました。
 8月頃からは、臥床したまま自力では起き上がることはできなくなりました。それでもキャピキャピした元気のいい看護師といっしょに訪問すると、簡単な会話ができました。
 9月があと1週間で終わるという日の正午過ぎに、息を引き取ったという電話があり、すぐに師長と訪問し死亡確認を行いました。ほとんど苦しむこともなく、眠るように逝ったということでした。本人の妻にも、キーパーソンとしてがんばった長男の妻にも、いたわりの言葉をかけ、家を後にしました。長年住み慣れたわが家で、家族に見守られながら人生を終えたのです。
 離島では独居老人が多く、死後2~3日して発見されたり、亡くなっても、連絡する身内も見つからない、などの悲惨な例を経験しました。そんな自分にとって、何もかもが、幸せな人生の終わり方のような気がして、「これで良かったのかなあ」と考えさせられました。
 2週間後、グリーフケアも兼ねて訪問し、故人を偲びました。「これで患者さんも満足して死への旅立ちができたのかなあ」と心の片隅で自分を納得させました。(林和廣、徳島・健生石井クリニック)

(民医連新聞 第1708号 2020年1月20日)

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