特別講演 「日本医師会から見た日本の医療・介護施策の方向」 日本医師会常任理事 石川広己さん
2日目は、日本医師会常任理事の石川広己さん(千葉・かまがや診療所所長)が「日本医師会から見た日本の医療・介護政策の方向~『診療報酬改定』『全世代型社会保障制度』等について~」と題して特別講演。その後、SGD(スモール・グループ・ディスカッション)を行いました。特別講演の概要を紹介します。
今回の診療報酬改定は、全世代型社会保障と身近な医療の実現、安心して受けられる社会の実現と医師などの働き方改革の推進、社会保障制度の安定性、持続可能性の確保とされています。しかし、実態をみると医療機関の厳しい経営環境が続き、社会保障の現場の担い手である医療機関は倒産の危機に瀕しているところも出てきています。
■かかりつけ医の役割大きい
日本の生産年齢人口と就業者数の推移では、1990年の15~64歳人口比率をピーク(69・7%)に下がっていますが、65~74歳を加えると2005年の64歳までの労働人口比率と同じレベルになるとしています。しかし、数的なつじつま合わせではなく、その年齢での特徴を捉えていかなければなりません。壮年期は記憶力が低下しますが、判断力や言語能力は保たれます。寿命がさらに延びると、高齢者は年齢が高齢になるほど、どうしても体のいろいろな部分に故障が生じてきます。健康寿命を延伸させるということはなかなか難しくなります。そう考えると、寿命を長くすること、また健康寿命を延伸するには、さらにささえ手を増やす必要があります。
地域包括ケアシステムは、これからのまちづくりのあり方であり、高齢者と子育て世代がいっしょに暮らせるまちづくりが大切です。25年に向けた医療介護総合確保法では、地域包括ケアシステム、地域医療構想が両輪に位置づけられています。医療と介護の情報連携のITC化は必須です。
地域に根ざしたかかりつけ医の役割は大きく、外来機能の分化と連携をすすめていく必要がありますが、かかりつけ医受診時に定額負担が導入されると普及に水を差すことになり、医療提供に重大な影響を及ぼします。受診のフリーアクセスを守っていかなくてはなりません。
■消費税に頼らない
日本医師会は、財務省が求める後期高齢者の患者負担の引き上げについては、低所得者にも十分配慮し十分な議論を尽くすこと、外来受診時定額負担は容認できないこと、薬剤自己負担の引き上げについては、医療上必要な医薬品は保険の対象とされるべきと主張しています。増え続ける国民医療費の財源は、消費税一本に頼るのではなく、企業の内部留保に対して課税する方法なども検討しています。超高齢社会、人口減少社会に向けた医療として、地域の実情に応じた医療提供体制、かかりつけ医を中心とした切れ目のない医療と介護の提供、消費税増税の効果と検証が必要です。
厚労省の18年の医療経済実態調査では、一般病院1施設あたりの利益率は、前年より0・3ポイント改善したもののマイナス2・7%で赤字が続いています。日本医師会が分析した調査では、3分の1以上の医療法人の一般病院、一般診療所の損益差額率は赤字、設備投資は減少傾向にあります。
■公立病院再編統合に危惧
厚生労働省が昨年9月に公表した「再編統合が必要な公立・公的病院」リストには、大きな混乱が生じている地域もあり、危惧しています。各地域の調整会議で十分議論をする必要があります。
高齢者人口の増加には温度差があり、地域のニーズや人口減少に応じて、病床の機能は変化していきます。患者や地域住民に不安を与えないようにしなければなりません。
(民医連新聞 第1708号 2020年1月20日)