光に向かって ひとりひとりの希望をつなごう
新春座談会 私たちのこれから 大いに語り合う!
2月に第44回定期総会を迎える全日本民医連。藤末衛会長が、医療と介護の現場を担う2人と語り合いました。
スピードと効率に追われる現場で医療と介護、そして生活を結びつけていくにはどうしたら? ひとつのゴミから患者・利用者の生活が見えてくる?! 骨折をくり返す患者のその訳は…、実は憲法25条には私たちの役割が書いてあった! など、たっぷり。これからの民医連の道筋を見つめ、働く仲間みんなで成長しよう、と未来に向けた座談会です。
新春座談会 ともに学び合い、成長し合える民医連を目指して
藤末衛(全日本民医連会長/東神戸病院医師)×落合甲太(大阪・西淀病院 副院長)×猪瀬茜(東京・ファミリーケアみさと 所長)
藤末 全日本民医連は今年2月、第44回定期総会を開きます。2010年に綱領を改定してからの活動を振り返り、患者・利用者の状況はどう変わったか、民医連の活動をどう引き継ぐか、考えたいと思います。
落合 17年目の医師で総合内科医です。副院長として安全や医師研修を担当しています。
猪瀬 東京民医連の訪問介護事業所の責任者です。法人内の訪問介護コンプライアンス・マネジャーを務め、今年からは事業所のある埼玉・三郷市在宅医療・介護連携推進協議会の委員もしています。
■スピードに追われる現場
藤末 2人が入職してからの約20年は「変化の時期」でした。貧困と格差、超高齢化社会、人口減少社会がキーワード。2000年に日本は高齢化率が世界一となり、介護保険のスタートも2000年でした。
落合 私が医師になった頃は入院平均在日数は約28日、今は14日を切る病院も増えてきました。現場のスピード感は格段に上がりました。患者の背景をつかもうとしても、聞いている時間がないのが現状です。
猪瀬 介護も同じです。介護保険開始の頃、訪問は1時間半~2時間が当たり前で、「何食べたい?」から始まり、買い物して食事介助までという流れでした。今は20~30分が多くなり、長時間訪問は赤字経営につながります。
落合 医療と介護を無理に切り離し、時間や効率に追われる中で、民医連としてもっとも大事にしたい「患者・利用者の生活と背景を見る」ということができにくくなっています。
■社会に対しモノを言う
藤末 民医連は「民主的集団医療」を歴史的に掲げてきました。スタッフ同士が対等平等であると同時に、患者と医療従事者の関係も対等平等ということですね。
患者の病像は変化してきています。疾患は多重になり、認知能力や心理状態、経済状況や家族の形態まで非常に複雑です。私たちに求められることも変わってきており、「共同の営み」という民医連の原点を忘れずに、医療・介護をすすめていきたいと思います。
落合 「共同の営み」という提起は先駆的で、民医連のこれからを考えるうえでも重要だと思いました。例えば高齢者の転倒を防ぐには、患者と家族に入ってもらわないと解決できない。同時に、転倒予防に有効なことが十分にできないほどの多忙さが現場にあることを、国民全体に知ってもらい、例えば看護配置を見直すなど制度を見直さない限りは転倒も減らない。政治に働きかけるマクロの視点が大事だと思います。
藤末 診療の場で「何に困っている?」と聞くと、「通院のタクシー代」と返ってきます。無料低額診療事業だけでは解決しない。地域や制度の問題を解決しなければなりません。
2019年に消費税が10%に増税され、患者・利用者の医療・介護へのアクセスはより制限されました。安倍政権はいま、後期高齢者の医療費一部負担を1割から2割に、保険のきかない薬の拡大、ケアプランの有料化、など社会保障を後退させ、公立病院の統廃合を強引にすすめています。民医連として、平和の問題と社会保障についてモノを言っていきたい。
落合 憲法25条の2項は、国民の最低限度の生活を守る責任は国にあると定めています。国が責任を果たす時、その実行主体として医療・介護に携わる者は、責任の一端を担うのだと思います。だからこそ、医療・介護従事者は単に病気を治すことだけではなく、身体的、経済的、社会的にも健康に生きることをささえるために、社会に働きかける活動が必要だと思います。
戦争は、健康を破壊する最たるモノです。戦争に反対して平和を守ることは、医療機関の役割のはずです。
■生活見る介護の切り捨て
猪瀬 三郷市は、MCS(メディカル・ケア・ステーション)というアプリを導入しました。LINEアプリみたいなもので、患者・利用者それぞれのフォルダがあり、医師、看護師、ヘルパー、ケアマネなどが登録。行った処置や患者・利用者の様子や発言を書き込み、いつでも見ることができます。
例えば利用者がヘルパーに「先生には話せなかったけど」と、心配事などを話すことがあります。それをMCSに書き込むと、次の往診で医師はそれを踏まえて診ることができます。
患者・利用者、家族の本音が一番出るのがヘルパー、ということは多く、医師や看護師から、「これを聞いてきて」と頼られることも増えました。
藤末 日々のケアの中で出てきたことをヘルパーが医師に伝え、病状の改善につながることは、日常的にありますね。今後、ひとり暮らしがますます増える中で、ケアの最前線にいるヘルパーの力は大きいというのを、現場で実感しています。
猪瀬 だから、生活援助を切り捨てる流れは非常に疑問です。例えば「ゴミ捨てなら誰がやっても同じ」と言われますが、ヘルパーは、ゴミひとつから「自分で調理できているかどうか」を判断したり、ゴミの重さから「失禁しているか」を察したりします。気づく手がかりは生活のあちこちにあるので、単純に身体介護と生活援助に分けられるのは納得できません。
藤末 「生活が見える介護」がどんどんできなくなってきているということですよね。
猪瀬 週1回しかゴミを出せないと、夏場だとウジが湧くんです。目の不自由な利用者だと、ウジが湧いても気づかないで踏んでしまい、部屋中に広がり、気づかないまま口にしてしまうことさえある。解決するには生活援助の「掃除」で入るしかありません。国は「生活援助が増えた」と批判しますが、現実を知ってほしいと思います。
藤末 生活の場を見ることでその人の医療上の問題点も見えてくる、ということですよね。
私の法人では、訪問診療の対象にする人の基準を「通院困難な人」から「生活の場で訪問診療にした方が、その人の療養にとってより良い」にしました。通院に戻ることもできます。
骨折をくり返す患者宅を訪問診療にしたら、不眠のために睡眠薬を過量に飲む傾向があり、夜は真っ暗にして寝ていることがわかりました。睡眠薬を飲んだ状態で真っ暗な中をトイレに行ったら転倒しますよね。
落合 通院に戻れることを担保しておくのはいいですね。
藤末 生活をみる医療とケア、最後まで責任をもつ継続性と包括性が、今後はますます重要になると感じています。
猪瀬 研修医が訪問介護の研修に来ることがあるのですが、「こんな生活をしているとは思わなかった」という感想を聞きます。病院と在宅を自由に行き来できるといいですね。
■地域をつなぐハブとして
落合 患者の生活に思いを寄せるには言葉で説明するだけではダメで、実際の生活の場に行くことが不可欠と痛感しました。
患者や地域が抱える問題が複雑になり、民医連の中だけでは解決できなくなっています。無差別・平等の医療と介護を地域の中でつくっていくことが必要で、民医連内外の事業所をつないでいくハブとしての機能が民医連の役割だと思います。
猪瀬 市内では、ケアマネなど他職種とは連携できても、ヘルパー同士の交流の場がない。市の研修担当になったので、現場の人たちが集まれるような仕組みづくりをすすめているところです。
藤末 その人らしく、人間らしく療養生活を送る権利を保障する、ケアの倫理を深めていくこと。そのためには学習が重要です。医療をメインにする人は介護や生活のことを、介護をメインにする人も医療のことを学ぶことが大切ですね。
落合 同時に医療機関としての質を維持し、上げていくことも必要です。子育て中や持病のある人など、多様な人がそれぞれの力を発揮できる形で働ける職場も実現していきたいです。
藤末 教育や人づくりで大切なことは、やはり若い人たちを信じることではないでしょうか。効率だけを優先して切り捨てるということを医療や介護の現場でやったら、行き着く先は、手のかかる患者・利用者の切り捨てです。いろんな人がいっしょに働く現場で、チームとして補い合いつつ、いっしょに民医連の実践を学んで成長することをめざしたい。患者・利用者を尊敬することと働く仲間を大切にすることは同じこと、という視点に管理者が立つことです。
人間的な発達とは、そういう中でこそ生まれると思います。2020年代、民医連の人づくりを輝かせたいと思います。
(民医連新聞 第1707号 2020年1月6日)