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民医連新聞

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患者さんの「産みたい!」をともにささえる 透析患者の妊娠・出産 鳥取生協病院・透析室

 「この世にやってきたいのち、祝福で迎えたい」。大きなリスクもある中、県内でも症例のない透析患者の妊娠・出産をささえた鳥取生協病院の透析室。何より大事にしたのは、患者と家族の願いでした。(丸山聡子記者)

 取材の日。林加奈子さんはもうすぐ1歳になる優愛斗(ゆめと)くんと長女の優良(ゆうら)さん(14)といっしょに来院しました。透析室のスタッフが駆け寄り、「大きくなったね」と迎えます。「順調に成長している。安心した」と話すスタッフもいました。

■「産む決意」受け止め

 加奈子さんは6年前に同院で透析を開始しました。幼い頃に両親が離婚。父とふたり暮らしでした。その父を早くに亡くし、18歳で優良さんを出産。シングルマザーとして治療と子育てに奮闘してきました。婦人科の疾患も抱え、「妊娠は難しい」と言われていました。
 体調の変化に気づいたのは昨年春。妊娠の連絡を受けた主治医の平田雅子医師は、すぐに情報収集を始めました。県内では透析患者が出産した症例はなく、ハイリスク妊婦を受け入れている県立病院も通院での透析は未実施。加奈子さんとパートナー、優良さんと話し合い、妊娠中の合併症や胎児への影響、母子双方のいのちにかかわる危険もあることなど、透析患者の妊娠のリスクを説明しました。
 受診先や周囲の人には「本当に産む気なのか」「リスクが高すぎる」と言われるばかり。パートナー、優良さんと話し合った末、加奈子さんは「みんなで家族になりたい。この子の生命力を信じて産みたい」と透析室に伝えました。「その時に平田先生が『産むと決めたなら、できるだけの治療をしてささえるよ』と言ってくれたんです。そう言ってくれたのは、平田先生と生協病院だけでした」。

■情報共有し細かくフォロー

 「初めてのことで、本当に大丈夫か、戸惑いもありました」と話すのは、師長の谷上聖子さん。「そしたら平田先生が、『いざとなったら透析室に助産師さんを呼ぼう!』って。本当にそうするわけではないですが、その一言で私たちの心も決まりました」と言います。
 症例や情報が少ない中、看護師、臨床工学技士、薬剤師、栄養士など多職種で情報を共有。臨床工学技士の木村真一さんは、「胎児が順調に発達し、母体に影響がないように気を配った」と話します。得た情報は加奈子さんにも伝えました。
 妊娠前、週3回計10時間だった透析を、週5回計20時間以上に変更。カロリー量やタンパク質の摂取、血圧の管理について目標を設定しました()。平田さんは、「これで正解なのかと試行錯誤。チームできめ細かくフォローする透析室スタッフが心強かった」と言います。
 妊娠の管理は県立病院の産婦人科で、透析は生協病院で継続し、妊娠20週までは通院で透析を続けることになりました。
 妊娠23週を過ぎ、自宅から100キロ以上離れた大学病院に管理入院しました。37週で陣痛が始まり、パートナーと優良さんに見守られ、無事に普通分娩で出産。母子ともにトラブルも合併症もなく退院し、生協病院で透析を再開しました。

■患者が望むことを

 以前は加奈子さんの側を離れなかった優良さんが、優愛斗くんの世話をし、加奈子さんの体調が悪い時は家事も引き受けます。「優愛斗が生まれて、2人とも無事に帰ってきた。夢みたい。毎朝起きると、寝ている優愛斗を見て『あ、おる。夢じゃない』って思う」と優良さん。
 平田さんは、「医療従事者が考える幸せと、患者・家族が願う幸せは違う場合がある」と言います。「透析患者の妊娠・出産はリスクが大きく、できれば避けたい。けれど、リスクだけで判断せず、民医連の病院として、患者や家族が望むことを正面から受け止め、力を尽くそうと考えました」。
 透析室のモットーは、「患者さんは自分の親だと思って、患者さんの思い、願いを大切にしよう」。以前、加奈子さんを担当していた看護師の山本幸さんから引き継いだ信念です。
 看護師の本多まゆみさんと西垣理恵さんは、「加奈子さんの出産と向き合い、患者さんの思いを尊重してささえきることができ、自分たちの自信にもなりました。これからも患者さんの思いを大切にした医療を心がけたい」と話していました。

(表)
栄養面の管理目標
カロリー  1900kcal/日
タンパク質 50g/日
塩分    6g/日
カリウム  1800mg/日
リン    750mg/日
水分摂取量
500~700ml/日
血圧について
収縮期血圧130~110mmHgを目標
治療中の収縮期血圧を
100mmHg以下にしない
1治療の徐水量を4.9%以内とする
→過度の徐水量の設定は低血圧を招く

(民医連新聞 第1707号 2020年1月6日)