フォーカス 私たちの実践 若年妊婦の支援 埼玉協同病院 若年妊婦の生活背景を知り 頼れる存在になり 多職種と連携して支援
若年妊婦は、自分中心の生活から育児中心の生活に切り替わることにストレスを感じやすい傾向にあります。妊婦健診が不定期受診となり、音信不通になった妊婦を継続的に支援しました。第14回看護介護活動研究交流集会で、埼玉協同病院の助産師・木田橋知里さんが報告しました。
Aさんは中学校卒業後、アルバイトを転々としながら生活をしていました。妊娠が発覚するとアルバイトを辞め、収入がないため生活保護を利用し生活していました。妊娠中期より交際相手との関係は破綻。妊娠が受け入れられず、喫煙したこともありました。
10代のAさんは、未婚でひとり暮らしでした。同市の市営住宅に実母と学生の妹が住む実家があり、犬とネコを1匹ずつ飼っています。実母は夜間の専門学校とバイト、パートを掛け持ちしており、ほとんど自宅におらず、多忙のため連絡が取りづらい状況でした。関係も希薄になり、頼ることができない様子でした。
当院で妊娠初診を受け、分娩希望先のB病院に転院しましたが、生活保護利用となったことで入院助産施設のある当院に紹介になり妊娠管理を行うことになりました。しかし、妊婦健診の不定期受診から音信不通に。地域関係機関とともに捜索し、身元がわかった妊娠35週に胎児発育不全疑いで管理入院となりました。
■交換ノートで安心感
妊娠が受け入れられない以外にも「お金がない」「受診する時間がない」「相手とうまくいっていない」とさまざまな思いを抱えていました。その思いが「妊婦健診未受診」につながっていました。
入院管理中は、職員が「情報収集したい」「関係を構築したい」と思っていても「…大丈夫です」と確実な情報がつかみにくく、遠慮しているようでした。そこで、距離感を見極めながらコミュニケーションをとるために、交換ノートでやりとりを始めました。
交換ノートには「妊娠を受容できない」「飲酒・喫煙に対する後悔」「中絶」「現在の胎児への愛着心」「これからの育児の不安」など毎日10ページ以上つづられていました。交換ノートをきっかけに、多数の職員との会話も見られ、入院生活に安心感を与えることができ、Aさん自身も振り返りや整理ができたと感じました。
■多職種・他機関と支援
支援の統一化や情報共有をはかるために、病棟内カンファレンスを3回行いました。入院中の経過、精神面、経済面の情報共有や、かかわる職員のさまざまな意見を共有し、支援を統一しました。その中で、生活経験が乏しいAさんのために、退院後の生活を見据えた支援を実施しようと、作業療法士による購買能力評価、栄養士による調理実習、ボランティアによる手芸実習と、多職種と連携して行い、Aさんが意欲的にとりくむ姿が見られました。
また、退院後の準備として育児の具体的なイメージが持てるように、人形を使った沐浴、抱っこ、おむつ交換の練習やその様子の見学、個別の産前教室を複数回行いました。Aさんも同行して家屋調査も行い、清潔な環境で新生児とともに安全に生活できるようにアドバイスしました。保育園の申請も確実にできるように、スタッフとともに申請をしました。
管理入院から産後退院までに、地域合同カンファレンスを2回実施しました。参加者は、保健師、子育て支援課、産科医師、SW、病棟助産師、Aさん、Aさんの実母です。1回目は妊娠38週頃、今後起こり得る状況予想や産後の支援体制について検討しました。2回目は退院後、入院中の様子から、退院後の地域での支援体制の具体化や、緊急時の新生児の保護について検討しました。
■地域で安心・安全の育児を
分娩予定日を迎え、胎児の発育も見られたことから一時退院となりました。しかし、翌日に陣痛が始まり来院、分娩に至りました。
出産直後から母児同室を希望したAさん。産後入院中は一度も新生児室で預かることはありませんでした。母子ともに経過良好で、自宅の育児準備も整っていたため、予定通り産後6日目に実家へ退院しました。退院後も電話訪問や家庭訪問、外来受診でフォローしました。また、保健師や子育て支援課の訪問も依頼しました。育児環境も提案したように工夫されており、実母、妹の協力を得て生活していました。電話訪問は必ず応じ、音信不通になることはありませんでした。
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頼れる人がいないAさんの支援から、“いつでも頼れる存在”がいると感じてもらうことの重要性を実感しました。また、妊婦健診未受診に至ってしまった経緯を、生育歴や生活環境を含めて理解することで、偏見なくかかわることができました。多職種、他機関と連携しながら慎重かつ確実な提案、実行をすることが重要です。
Aさんの思いを捉え、地域で安全・安心の育児生活を実現できるように支援していきます。
(民医連新聞 第1702号 2019年10月21日)
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